一時は仕事で行けないかもしれなかったイザボー

予定がなくなり無事観劇。

百年戦争もジャンヌダルクも知ってはいたけれど、イザボーという王妃を全く知らなかったので、これは好奇!と何も情報を得ないまま当日に臨んだ。


【全体の感想】

歴史は往々にして惨事の原因を女のせいにしたがるものだが、狂気の男たちの中で愛するものを守りながら世を渡っていくには鬼になるしかなかった。傾国の美女とも鉄の女とも違う、もっと泥臭くてもがきあがきそれでも生きた1人の女性の物語。


黒世界がもう一つ…だったので、末満健一氏にあまり期待をせずにいたが、題材とキャスティングの絶妙さが素晴らしいと思った。

ドラマでいうと宮藤官九郎さんがそうなんだけど、他の作品だと演技下手やな〜とか思う俳優も巧妙な掛け合わせですごく自然にジャストフィットさせる、そんな感じ。このまとめ方はすごい。全員いい!と思った作品は久しぶり。

ただこの題材をやるには3時間じゃ足りなかったなと。2部作か3部作くらいにして、可愛い小鳥がいかにして最悪の王妃となったのかをもう少し丁寧に描いて欲しかった。ロック調ということもあってテンポの良さを大事にしたのだろうけど、シャルルが狂うくだりとか、暗殺未遂のくだりとか、走りすぎて年表眺めてるようだった。もう少し深掘りしてくれればもっと感情移入できたと思う。

ただ、黒世界の時も感じたけど、場面ごとの色彩の使い方が凄くセンセーショナルで、望海風斗さんの美しさを際立たせていた。

曲もアクロバティックも素晴らしくて、ロックミュージカル好きとしては最高だった。


望海風斗(イザボー)



一言で言えば「圧巻」

たくさんの元宝塚女優を観てきたけど、間違いなくトップクラスのインパクトだった。まぁ今色々あるけど、こんなバケモノ級の女優を輩出するんだから衰退はしないでほしいな。ラスト近くの政略結婚をさせる娘の"幸せになれる?"という問いに、少し言い淀んで"幸せは自分で掴むものよ"というシーンで涙腺崩壊した。

嫁いできてすぐのオロオロとシャルルを心配する新妻から自分がしっかりしなくては!という使命感から変わっていくイザボー。置かれた環境が、歴史が、彼女をそうさせたように受け取った。決して褒められる選択ではなかったが、魑魅魍魎が跋扈する暗黒時代を生き抜くために、ただただ必死に足掻いた結果だったんだろう。豪勢なふるまいも冷酷な決断も、彼女なりに国を思い、家族を思った結果だったのかな。帝王学を学ぶ機会もなかった、花嫁修行しかしてこなかった子女には過酷な運命だったに違いない。ムリゲーよ。ストーリーが進むに連れて鎧を纏うように衣装が変わっていくのが印象的だった。

中世ヨーロッパの世情を、現代の価値観で推し量ることはできないけど"悪女"という落款を押されている彼女を違った切り口で眺めてみることでそこに人間味が見えてきた。この作品の愛だと思う。


甲斐翔真(シャルル7世)



最近力の入った作品には大体名を連ねているので、何度か観たことはあったけど、今回のオープニングのロックなナンバーがカッコ良すぎた。見るごとに歌唱のクオリティが上がっていく甲斐氏。間違いなくこれからの日本ミュージカルを牽引していく主力になっていくんだろうなぁ〜

個人的にはそんなに好きな顔じゃないんだけど、その存在感は圧倒的。


上原理生(シャルル6世)


演技に重きを置いた演出に、"ミュージカル俳優"としてだけではなく、"役者"として評価されたキャスティングなのかな?と感じた。伝家の宝刀バリトンボイスをあまりお披露目することもなく、ファンとしては物足りなさも感じつつ、しかし殺陣やダンスの新境地も違和感なくそつなくこなしてやっぱり役に対しての作り込みが凄いな〜と思う。いつも歌わずに演技しているところは、やはり声質が特徴的だから少し浮くことが多いのだけど、今回"王様""狂人"という2面を持ったキャラクターにおいては、その独特な雰囲気がとてもあっていた。前述したキャスティングの妙だと思う。

まぁ、狂気王という役柄が発表された時は、これはホールを狂気に巻き込むような圧巻のソロがあるんじゃないか?!と期待したけど、それがなかったことだけが本当に本当に本当に残念。スカピンのロベスピエールの「新たな時代は今」のような、観客の脳天かち割りにくるような、痺れるとか鳥肌が立つとかどの言葉でも形容できないあの圧倒的な歌唱を切望していた。カズさんもいるしさ笑

そしてなんといっても初めてじゃないか?剣の殺陣!!今までさ、銃掲げたり構えたりばっかりだったしさ!これもまた得意ではないだろうけど、"狂人"というところで大柄な体格を目一杯使って大ぶりに大剣を振り回す様はまさに【狂気王】だった。素晴らしい。

ダンスは、本当に、違った意味で涙が出そうなくらい、ダンスのプロに混じっても違和感ないほどキレッキレに踊ってた!1789の初演から8年…ここまできたか…あの時君は〜若かった〜♪


中河内雅貴(ジャン)


ジャンがキャラとしてめっちゃ好き。

名前はよく見る役者さんだけど、あまり注視したことがなかった。侍女の結婚パーティーの時真顔でコミカルに踊るのがもう可愛くて可愛くて笑

それでいて後半権力を握ると少し雰囲気が変わるのが凄い演じ分けだったなと。

でもお前も結局イザボーに手だすんかーーい!って思ったわ笑


上川一哉(オルレアン公ルイ)


初めて…かな?見たの。

軟派なモテ男だけど人一倍奥さんは大事にしてる。彼の愛はきっと一つじゃなくてみんな本当に好きなんだろうな〜と思わせる、ちゃらんぽらんなのに憎めない魅力的なルイだった。

再演の北斗の拳でジュウザをやっていたそうだけど、断然今回の方が良かったと友人談。


那須凜(ヨランド・ダラゴン)


カーテンコールにて、ミュージカル初めてという衝撃の事実が判明。めちゃめちゃ歌カッコよかった。てっきり宝塚出身とかと思ってた。最初は優しい養母かと思いきや、ストーリーを追うごとに聡い女狐のようにみえてくる。彼女もまたイザボーを苦しめた歴史の唸りの一端だった。見た目はそんなに変わらないのに、その表情や振る舞いで薄気味悪く感じてくるのか流石の舞台役者だった。


石井一孝(ブルゴーニュ公フィリップ)


相変わらず凄い声量、凄い圧。この声好きなんだよね。

ただ久しぶりに観たカズさん、残念だけど体力的に衰えたなぁ〜と感じてしまった。

年配のミュージカル俳優って、声量保つために仁王立ちで歌いがちなんだけど、ついにそんな感じだった…ちょっとショック。我が推しもそのうちこんな時代が来るのかなぁ〜と悲しい気持ちになってしまった…その時代が来てもまだ愛せるだろうか…?


大森未来衣(若いイザボー、娘、ジャンヌダルク)


めっちゃ可愛かった。

ロミジュリ時代の木下晴香ちゃんを彷彿とさせるはつらつさと可憐さ、そして大人イザボーに呪いのように幸せを問い続けるサイコパス感。いい。すごくいい。

可憐さとダークさを併せ持ったコンスタンツェとかやって欲しいな。