智が食器を下げ、やっと嵐粧堂の1日が始まった。
とは言っても始業時間があるわけでもタイムカードを押すわけでもない。
さっき入れたコーヒーを飲みながら、何となくミーティングが始まるのだ。
「えっと、明日納品のミウラFOODSのパッケージは後で見るとして、今月のうちに納めなきゃいけないのは後何件あったっけ?」
いつものように櫻井が仕切っていく。
嵐粧堂。
大手百貨店「サクライ」が2年前に新規事業として立ち上げたディスプレイ専門の店。
大手企業から個人経営の店までと顧客は幅広くどんな依頼も要望以上の仕上がりを約束している。
立ち上げに参加したメンバーがこの5人。
というか、元々3年に1回行われる新商品の社内コンペでチームを組んだのがこの5人で、2回連続で最優秀賞を取り商品化されたものは期間限定販売という文句も手伝って驚異の売り上げを記録している。
社内でも5人は特異な存在になりそのまま本社で登りつめるだろう事は皆が予測していたのだが、ちょっとした問題が起こってしまったのと新規事業を立ち上げた時期が一緒だった為、あれよあれよとこの5人で嵐粧堂を……という事になったのだ。
5人もいろいろ面倒くさくなっていたので二つ返事で承諾し、今に至る。
役割としては
櫻井が営業で仕事を取り
松本が大まかなディスプレイの案を出し
二宮が様々な資材・機材等を揃え
大野が作り出す。
そして相葉は縁の下の力持ち的な存在で経理・総務・雑務果ては体調管理までしてくれるというワケだ。
「じゃあとりあえずは大野さんはニノと一緒に機材見に行って、俺と松本は1日早いけどミウラFOODSに納品に行ってこよっか。夜のシェ・クボタとの打ち合わせにいつもの店使いたいんだけど、相葉さんいい?」
「ん、じゃあリサーチしてクボタさんの好みの食事用意してもらえるように手配しとくよ」
「よし!じゃあ今日も1日頑張りますか!ーーの前に~」
いつもの一言でミーティングが終わるはずだったが櫻井が言葉を続ける。
「おーのさん、パッケージ見せて~」
期待にキラッキラの目と見る前からニヤけている口元を隠す事なく智を見た。
パッケージとは言わずもがな、完成品のことだ。
「んふふ、見ちゃう?見ちゃう⁇」
智もニヤニヤしている。他の3人も同じように早く見たかった。
松本の頭の中にあるイメージを具現化するのが大野の仕事だが、いつもいつもそのイメージを超えてくるのも大野なのだ。
「えー、それでは。」
搬入口に置かれた大きなトラック。その中に商品は入っている。
振動を極力無くす特別な機械を乗せたそれは『納品時にお客様に感動を』と完成形をそのまま届けれるようにオープン時に祝いの品として本社から贈られたものだ。
「ん、んんっ」
とわざとらしく咳払いをしてから大野が続けた。
「今回のコンセプトは「和」それから相葉ちゃんがあまり派手好きではないお客さんだと教えてくれたので、あえてシンプルに、してみました。では」
一瞬ニヤッとしてから
「オープン!」
自分で言ってトラックのウイングの開閉ボタンを押す。
ウィーン
機械音がしてゆっくりとウイングが上がってゆく。松本はラッピングされたプレゼントを解くような気分で見ていた。