僕には2人の子供がいる。
どちらも男の子で、上が高1、下が小6。
上の子の名前は尚哉。下の子は亮太と言う。
どちらも元気一杯。もちろん今の子らしく、どちらもゲームに夢中だ。
でもうちはほかの家とは少し違う。
10年前に、ある事情で僕たち夫婦は離婚した。
そして、当時5歳だった尚哉は、父親の僕が引き取り、1歳だった亮太は母親が引き取った。
つまり、この兄弟は、生まれたときからお互いほとんど別々に暮らしているのだ。
でも交流がないわけではなく、月に一度か2ヶ月に一度、亮太がうちに遊びに来る。
これもその別れた事情の一つなのだが、兄の尚哉は、発達障害がある。
別れた頃の尚哉の障害の程度は重く、まだ乳飲み子だった亮太と2人を母一人で育てることは不可能だった。
今では尚哉の障害も徐々に軽くなって、人とのコミュニケーションも普通とはいかないが、まあ何とか取れるまでに成長した。
亮太がうちに遊びに来たがる理由は、ずばり、尚哉とゲームで遊ぶことができるからだ。
僕に会いたいから来るのではないと思うと少し淋しい気はするが、それでも顔を見せてくれるだけで僕は満足だった。
尚哉は小さな頃からすごくテレビゲームが好きだった。
それは尚哉の持つ障害の傾向で、一つの物事に信じられないほど集中できるということも理由の一つなのだろう。
注意しなければ、飽きずにいつまでもいつまでもやっている。
そのせいか、今までやって来た数々のゲームはほとんど最後までクリアしてしまった。
ここ数年は、wiiや、PSなどの、所謂、コンシューマーゲームというやつには少し飽きてしまったようで、もっぱらオンラインゲームに夢中だ。
今やっているのは、ネクソンから配給されている、メイプルストーリーという、まあ子供や学生などの若者を対象としたオンラインゲームだ。
横スクロールのRPGアクションゲームで、最初見たとき、なんとなくマリオ?という気はしていたけれど、子供たちが楽しいのならそれもありなのかと思った。
亮太がうちに遊びに来たとき、尚哉がパソコンのモニターに向かって一生懸命遊んでいるメイプルを後ろで食い入るように見つめていた。
でも亮太は、まだ小さくて、大勢の人が参加して遊ぶオンラインゲームは、少し難しい。
大勢の人が参加しているということは、それなりのマナーを守らなければならないし、実生活と同じようにモラルも存在している(と思う)。
もちろんキーボードも打つことはできないから会話もできない。
ここらへんがオンラインの敷居の高さなのだろう。
「お父さん・・・」
亮太が炊事していた僕のそばにやって来て、何か言いたそうにしていた。
「ん?どうした?」
「・・・・・・」
この子は、小さい子供ながら、僕に遠慮しているのだ。
きっと母から強く言われているのだろう。「お父さんのところへ行ったら、おとなしくしていなさい」と。
「ゲームしたいの?」
さりげなく聞いてみた。
「・・・・・・・」
亮太は何も答えないけれど、明らかに表情が、そうだよっ!って言ってるのがわかった。
そこで僕は、尚哉の部屋へ亮太といっしょに行って、尚哉に頼んでみた。
「おーい、尚哉、亮太にそれちょっとやらせてあげてくれないかなぁ?」
「えー、亮太は無理だよ。だって、キーボード打てないから。」
「打てなくてもゲームするぐらいはできるでしょ?な、やらせてあげてよ。」
「おれのキャラ使われるのは嫌だよ。」
「うーん、じゃあ、新しく作ってあげてよ。」
「無理!おれのID使わせたくない」
「そうか・・・」
僕は、変に納得して、ここらへんがやっぱりオンラインゲームのオンラインゲームたる所以だなあと思った。
亮太は今にも泣きそうな顔だ。
「よし、じゃあお父さんが亮太に新しくID取ってあげるよ。それならできるでしょ?」
「それなら、まあ・・・。」
いま一つ納得し難いような尚哉を尻目に、僕は自分のPCでネクソンのサイトに繋いでさっそくIDを取った。
「尚哉、これでできるでしょ?亮太にキャラ作ってやってよ。」
「うんわかった。」渋々ながらも尚哉は亮太に新しいキャラを作ってくれた。
「尚哉、ありがとうな。」
「設定はしてあげるけど、あとは一人でやってね。」
亮太が母の下へ帰って数日たった夜のことだった。
突然尚哉が僕のところへやって来てこう言った。
「とーさん!亮太がいる!」
「?」
「メイプルに亮太がいる!」
「え?ほんとか?」
「うん。おれが作ったキャラだから間違いないよ。」
「それで何か話しした?」
「ううん。だって亮太キーボード打てないから。でもずっとおれのあとをついてくるから間違いないよ。」
「そうか。仲良く遊んでやってな。」
「うん。狩りに連れて行ってやった。亮太は何もしゃべらないけど、おれが狩ってるとこでいっしょに狩りしたよ。」
それを聞いて僕は嬉しくなった。
離れていても、ちゃんとお兄ちゃんといっしょにいることができるんだ。
ゲームってこんなこともできるんだな。
きっと亮太の後ろにいる母も、同じ思いに違いない。
僕は・・・ちょっと泣きそうになってしまった。