このヒコイチの家の裏山には一匹のタヌキが住んでいて、毎日旅人にいたずらをしては喜んでいました。
ある晩の事、タヌキは旅人に化けると、
ヒコイチの家にやって来ました。
「こんばんは、ちょいと、ひと休みさせてくださいな」
戸を開けたヒコイチは、この旅人は裏山のタヌキに違いないと思いましたが、知らぬ顔で家へ入れてやりました。
しばらくするとタヌキは、ヒコイチに尋ねました。
「ところでヒコイチどんには、何か怖い物はあるか?」
それを聞いたヒコイチは、このタヌキをからかってやろうと思いました。
「う~ん、怖い物か。そう言えば、一つだけあった
でも恥ずかしいから、誰にも言わないでくれよ。実はな、まんじゅうが怖いんじゃ」「えっ? まんじゅう?
あの、食べるまんじゅうか?!
あはははははっ、まんじゅうが怖いだなんて」
「ああ、やめてくれ!
おら、まんじゅうって聞いただけで、体が震えてくるんだ。怖い怖い」
ブルブルと震えるヒコイチを見たタヌキは、
(これは、いい事を聞いたぞ)
と、大喜びで、山へ帰って行きました。
次の朝、ヒコイチが目を覚ましてみると、何と家の中に出来たてのまんじゅうが、山ほど積まれていました。
「おっかあ、馬鹿なタヌキからまんじゅうが届いたぞ。さあ、一緒に食おう」
ヒコイチとお母さんは大喜びで、タヌキが持ってきたまんじゅうを食べました。
その様子を見ていたタヌキは、だまされたと知ってカンカンに怒りました。
「ちくしょう! タヌキが人間にだまされるなんて! この仕返しは、きっとするからな!」
そしてその日の夜、タヌキは村中の石ころを拾い集めて、ヒコイチの畑に全部放り込んだのです。
(えっへへ。これでヒコイチのやつ、畑仕事が出来ずに困るだろう)
よく朝、畑仕事に来たヒコイチとお母さんは、畑が石ころだらけなのでびっくりです。
「ああ、家の畑が!」お母さんはびっくりして声をあげましたが、しかしそれがタヌキの仕業だと見抜いたヒコイチは、わざと大きな声でお母さんに言いました。