どうも、はちごろうです。

 

 

 

明日から緊急事態宣言などの行動自粛が全面解除。

この1年半の体たらくを考えると正直「大丈夫か?」と思います。

なので、明日以降も感染防止対策を徹底して過ごしたいと思います。

とはいえ、私個人は映画館くらいしか行く場所がないし、

映画館は感染防止対策が徹底してる施設なので

いままでどおりの生活を続けていくだけです。

もちろん異論はあるでしょうが、何が正解かはわかりませんしね。

では、映画の話。

 

 

 


「浜の朝日の嘘つきどもと」

 

 

 



福島中央テレビ開局50周年記念のドラマ。
福島県南相馬市に実在する映画館「朝日座」を舞台に、
高校時代の恩師との約束を果たすために
解体寸前の朝日座再建を目指す女性の姿を描く。
出演は高畑充希、柳家喬太郎、大久保佳代子。
監督は「ふがいない僕は空を見た」のタナダユキ。

あらすじ

福島県南相馬市の映画館「朝日座」。
支配人の森田保造は祖父の代から続いた朝日座を守り続けてきたが、
東日本大震災による人口流出、さらに昨今のコロナ禍が決定打となり、
彼は朝日座の閉館を決め、跡地には健康ランドとリハビリ施設建設が予定されていた。
そんなある日、保造が映画館の前で古いフィルムを燃やしていると、
一人の若い女性がやってきて慌てて彼からフイルムを取り上げる。
彼女の名は浜野あさひ。
元々タクシー運転手の父親と母、弟の4人で暮らしていたが東日本大震災で被災。
父親は交通が寸断されて運行出来なくなった鉄道やバスの代わりに
家族を残してひとりタクシーで輸送のボランティアを始めるが、
「震災を機に金儲けをしている」「震災成金」など、
心ない噂によって一家は風評被害に遭う。
郡山の高校に避難していたあさひも学校内で孤立してしまい、
学校の屋上から飛び降りようとしていたところを
タバコを吸いに来た女性教師の茉莉子に止められる。
屋上にいるあさひのことを以前から気にしていた彼女は
あさひを視聴覚室に連れて行って一緒に古い映画を観るのだった。
その後、あさひは東京の高校に編入するが学校になじめず中退。
母親は震災以降、精神のバランスを崩して身体の弱い弟にかかりっきりで、
彼女のことを顧みる余裕はなかった。
そんなあさひは夏休みを利用して茉莉子の元に転がり込む。
彼女は家出してきたあさひをアパートに住まわせるが、
9月になっても戻らない事を心配したあさひの母親が茉莉子に連絡してくる。
しかし、あさひを顧みない母親の態度に怒った彼女はこのままあさひを保護すると通告。
その結果、茉莉子は未成年者略取の容疑で母親から通報され、
あさひはこれ以上彼女に迷惑は掛けられないと東京に戻る決意をする。
その後、あさひは東京で映画会社に就職するも、コロナ禍で会社は倒産。
同じ頃、茉莉子が末期の乳がんで余命宣告をされたという知らせを受ける。
彼女を見舞ったあさひは、そこで茉莉子から朝日座の再建を命じられたのだった。
あさひは保造に素性を隠すため、チケットの窓口からヒントを得て
自らを「茂木莉子(もぎ・りこ)」と名乗り、
不動産屋に掛け合ったり、クラウドファンディングを立ち上げるなど、
どうにかして朝日座の存続を模索するのだったが・・・

 

 

 

それでも映画が必要な意味



昨年から何度も発出する緊急事態宣言などで
その都度さまざまな業種で営業自粛を余儀なくされているわけですが、
ご多分に漏れず映画業界も休館や観客の制限を続けているわけでして。
本作はそんなコロナ禍に見舞われた老舗映画館を舞台に、
どんな状況下でも映画は、娯楽は必要だと訴える作品、
・・・かなと思ったんですが実際はそれだけではない、
非常に多岐に渡った問題提起をしてくる作品で。


本作の舞台となる映画館「朝日座」はいまでも営業中の映画館。
主に過去作の2本立て上映を行っている、いわゆる名画座というやつで。

物語はこの朝日座がコロナの影響でいよいよ経営が立ちゆかなくなり、
地元の建築会社「オフィスI」に売却がほぼ決定。
解体後は健康ランドとデイサービスが建設される予定まで決まっているんですね。
しかしそこに東京からあさひがやってきて、存続を模索するわけです。
こういう展開になるとなんとなく建築会社側の心証が悪くなるんですが、
この会社側は会社側で考えがあってやってるんですね。
社長の市川は原発事故で避難を余儀なくされた飯舘村出身。
そんな彼は福島の復興のために何が出来るかを模索し、
雇用創出のために健康ランドの建築計画を立ててるんですよ。
そうすれば福島から離れていった人々が戻ってくるかもしれないと。

つまりですね、映画文化を守るために朝日座を存続したい、
辛い状況でも娯楽は必要であるという、あさひや保造の主張も、
より雇用を生み出す施設を建てた方が地域のためになるという市川側の主張も、
どちらも正しいんですよ。だからこそ単純に善悪では語れないわけで。

で、実はこの作品、こういう構図だらけなんですよ。
例えばあさひの父親は震災直後に地域のためと仕事に専念したけれど、
でもその結果、家族を放置して最終的に家庭は崩壊。
また母親は震災後、たったひとりで子供たちを守ろうとした結果、
より身体の弱い長男の方を優先してあさひに気をかけることが出来なくなってしまう。
茉莉子は家出してきた朝日を守るために自宅に住まわせたわけですが、
でも法律的にはその行為は「誘拐」となってしまうわけです。
この、登場人物全てが善人であるがゆえに生じてしまう衝突、誤解、すれ違い。
その姿に何とも言えない気分になるんですよ。

また、市川が契約を白紙に戻そうとした保造に契約を履行させるため、
朝日座に戻ってきた地元住民に説得をするんですね。
「健康ランドが出来れば雇用が生まれ、県外に行った家族が戻るかも知れない。
 やっぱり最後に頼れるのは家族ですから」と。
ところが、本作に登場する主要キャストは家族関係に苦い過去を抱えているんですね。
あさひは前述したように震災をきっかけに家族はバラバラになったわけですが、
茉莉子の父親もいわゆる「毒親」で、親らしいことを何もせず、
でも娘に金だけはせびるというひどい男で。
そして保造もまた震災がきっかけで弟を亡くしているんですよ。

以前、アフター6ジャンクションの映画評論コーナーで
是枝裕和監督の「万引き家族」が課題になった際、
ある作家さんの「家族は自明である」という言葉を番組内で引用していたんですが。
「家族は自明」、つまり「家族であることが当たり前である」という考え方ですね。
しかし残念ながら自明でない家族はいくらも存在していて、
そしてその事に多くの人は薄々気付いているわけです。
本作でもあさひたちはまさにその「自明でない家族」の一員で、
だからこそ市川の説得に納得した地域の人に憤るんだけど、
でも同時に震災やコロナ禍という不安定なときだからこそ
「家族」という幻想を信じたい、すがりたいという人も少なくないというね。

その、正論では割り切れない、どちらの主張も間違っていないという
そのジレンマに頭をフル回転させられる内容でした。


そんな一筋縄ではいかない物語に、二人の「芸人」が出演してまして。
それが保造役の柳家喬太郎と、茉莉子役の大久保佳代子さん。
この二人がですねぇ、ちょっと驚くほどいいんですよ。

喬太郎さんは人気、実力共にトップクラスの芸人さんで、
マスコミがよく褒め言葉として使う「いま最もチケットが取れない芸人」の一人
(「最も」だったら一人だけじゃねぇか!とも思うんですが)。
古典派の大看板柳家さん喬師匠門下でありながら、
かつては春風亭昇太、柳家彦いち、春風亭白鳥らと
SWA(創作話芸アソシエーション)という新作落語の勉強会を立ち上げ、
メディア露出も積極的という多彩な活動をしてる方で。

一方、大久保佳代子さんは言わずと知れたお笑いコンビ「オアシズ」のひとり。
学生時代からの友人、光浦靖子さんとコンビを組んでデビューし、
いまや女性芸人の世界では大御所の域にいる感じですね。

俳優さんと違ってお笑いを生業とする人というのは本質的に「外様」、
つまり常識や日常の外側にいて、それらを俯瞰する、
もしくは内側にいながらもその常識を相対化出来る存在なんですね。
だから本作のような、人々の中で価値観が統一されていない、
常識と常識のぶつかり合いによって起きる騒動のなかで、
どこか達観している人物を演じるには適してるわけですよ。
喬太郎さん演じる保造が弟を亡くしてることをあさひに言うシーンなんか、
そこまで保造がどれだけの葛藤を乗り越えてきたかが伝わってくる演技で。

また大久保さん演じる茉莉子もすごいんですよ。
茉莉子は東京で映画会社に勤めていたんだけど、
毒親と縁を切るために当時付き合っていた男を追って福島に移住。
教員免許を持っていたことが幸いし、そこで教職に就くわけです。
とはいえ、視聴覚室を勝手に使って映画を観たり、
普段は立ち入り禁止の屋上でタバコを吸ったりとやりたい放題。
しかも惚れっぽくて恋愛関係も派手という、根っからの不良教師で。
でもだからこそ常識に対してどこか冷めていて、
教師として一応生徒に常識を指導する立場ではあるけれど、
あさひのような常識を説くだけでは解決できない生徒の問題に寄り添えるというね。
とにかく彼女が出演するシーン、特にあさひと一緒にいるときの空気感がホント自然で。
もちろんあさひ役の高畑充希さんの演技も確かだからこそなんですけど、
もし年末の賞レースで大久保さんが候補に挙がっても驚かないですね。それくらい良かった。

またこの作品、ひとつひとつのカットが結構長いんですよ。
きっちり時間を取って登場人物のやりとりを見せてくれるんですね。
だから観てるこっちも自ずと緊張感を持って見守ってしまうというか。


なんだろう、正直かなり散漫な感想になってしまいましたが、
この作品はいろんな視点で語ることが出来る、
それだけに何度観ても発見のある作品なのではないか?と思いますね。
例えば、本作の舞台は福島ということもあって
「震災」や「原発事故」の影響が点在してるんですよ。
例えばあさひが乗ってるバスの車窓から見える風景とかね。
また、茉莉子は年下の外国人男性ヴァン君と付き合い始めるんだけど、
彼はいわゆる実習先でパワハラに遭った技能実習生だったりと、
そうした社会問題にも目を向けていたりしてて。

といったわけで、本作は2021年の福島の、日本の、
そして世界のリアルが盛り込まれた意欲作だったなと感じました。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[2021年9月26日 新宿武蔵野館 2番スクリーン]

 

 

 

 


※本作に登場する作品を出来るだけ