どうも、はちごろうです。

 

 

 

先週末から大運動会が始まってますね。

それで開会式の直前までドタバタが続いていますけど。

で、その開会式の人事もまた問題になり、

開会式の作曲担当とディレクターが過去の不適切な行為で

開会式直前にそのポストを追われるという異常事態。

(ま、作曲者の行為については不適切どころか犯罪ですが)

まー、人はそうそう聖人君子として生きていけるわけもなく、

何かしらの不適切な行為をしてきているわけですが、

問題はやったことに対してどうケジメを付けるか?

どうリカバリーをしていくかというのが問われていると思います。

では、映画の話。

 

 

 


「プロミシング・ヤング・ウーマン」

 

 

 



本年度アカデミー賞5部門にノミネート。最優秀脚本賞受賞のサスペンス。
昼間はカフェでウェイトレスをしながら、夜はバーで酔った振りをし、
介抱するそぶりを見せながら自宅に連れ込もうとする男を撃退する女性の思惑とは?
主演は「17歳の肖像」のキャリー・マリガン。監督はエメラルド・フェネル。

あらすじ

夜のバーで一杯飲みながら談笑する3人のサラリーマン。
その中の一人が店の隅に目をやると、そこに泥酔した女性がいた。
連れはいないようで、いまにもソファーから崩れ落ちそうな様子。
それを見ていた3人のうちのひとり、
ジェリーはあとの二人にそそのかされて女性を介抱することに。
彼はその女性をタクシーで送る振りをしながらそのまま自宅へ。
ソファーに座らせ、酒を飲ませたジェリーはそのまま女性にキス。
「横になりたい」という女性をベッドに寝かせた彼は、
そのまま服を脱がせようとした。
「何をしてるの?」という女性の問いかけを一切気にせず、
ついにショーツを脱がせたジェリーに対し、
女性はやおら起き上がり、ハッキリとした口調でこういった。
「アンタ、一体何をしてるの?」

彼女の名はカサンドラ。
元々地元オハイオ州のフォレスト医大に通う優秀な学生だったが、
とある事情で中退し、現在はカフェでウェイトレスをしていた。
30歳を過ぎても実家暮らし。夜は遅くまで外出することもあるが、
恋人も友人もいない彼女を両親は心配していた。
しかしカサンドラには誰にも言えない秘密があった。
彼女は夜になると派手な化粧で街に繰り出し、
バーで酔った振りをしては、介抱する口実で近寄ってきて、
そのまま自室に引き込んで行為に持ち込もうとする男を
何十人と撃退しているのだった。
そんなある日、店に医大時代の同窓生ライアンが客としてやってくる。
当時ひそかにカサンドラに恋心を抱いていた彼はデートを申し込む。
そのデート中、成績優秀だった彼女が突然中退した理由を問うライアンに、
カサンドラは「やりたいことがあるから」と答えるだけだった。
後日、彼女が近所の病院に薬をもらいに行った際、
小児科医として勤務しているライアンと再会する。
その際、医大で一緒だった仲間の近況を話す彼の口から、
ロンドンの病院で働いていた同窓生のアルが結婚のため帰国したことを知る。
それをきっかけに、カサンドラはかねてよりの計画を実行に移してくのだった。



Don't you know that YOU’re toxic?



90年代に活躍したアーティストにブリトニー・スピアーズという女性がいて。
彼女はデビュー曲「Baby,one more time」で若くして一躍大スターになったんだけど、
実は彼女がいま、とんでもないことになっていると昨年報道で明らかになりまして。

 

https://www.vogue.co.jp/celebrity/article/britney-spears-i-wont-perform-on-stage-with-my-dad-handling


ブリトニーはこのデビュー曲のヒットで世界的に有名になるんだけど、

「若いのに男を誘惑するビッチ」というイメージが付いたこと、
そしてヒットを受けてマスコミが彼女の私生活を追い続けたことに嫌気が差し、
彼らを追い払うつもりで数々の「奇行」を繰り返すんですね。
その結果、「お騒がせセレブ」という不本意なイメージが定着し、
しかもなまじ売れてしまったが為に誰からも同情されなかった。
「若くして売れて調子に乗ってる。自業自得だ」みたいな。
ところが、ここからさらに状況が悪化するんですね。
このイメージを逆手に取り、ブリトニーの父親が「後見人」を名乗りでるんですね。
「娘は精神的に不安定だから保護する人間が必要だ」と。
これを行政が認め、彼女の行動は全て父親に「管理」されることになる。
本来精神的に不安定だとすれば医療機関で受診をするとか、
施設で療養するとか、それなりの対応をするのが一般的な対応なんだけど、
この父親、あろうことか彼女をラスベガスでショーに出演させる契約を結び、
ブリトニーは1年間、休むことなく働かされ続けるんですね。
しかもその時の契約金は全て父親が「管理」し、
彼女は実質ただ働きをさせられていたというんですよ。
で、これが明らかになったきっかけは彼女がある男性と結婚を決意し、
裁判所に父親を後見人から外すように訴え出たことなんですね。
しかもその際、彼女が現在体内に避妊具を装着させられ、
自分の意志で子供を産むことも出来ない状態だということも明らかになる。
これがメディアに報道されたことで全米の世論が一変し、
かつて彼女を「お騒がせセレブ」として嘲笑の対象にしていたこと、
そして彼女自身が苦しんできたことに思い至らなかったことに対して、
メディアも業界関係者も謝罪し、支援の輪が広がってるんですね。


で、なんで彼女の話題をしたかというと、
この作品のなかで彼女のヒット曲「toxic」のインストが
作中で要所要所に使われているからなんですね。

 

 

 

 

 


この曲の発表当時、このイントロが非常に印象的で。
ストリングスっぽいシンセサウンドで、ちょっと金切り声にも聞こえる音色で、
攻撃的というか、不穏な空気さえ漂わすようなイントロだったんですよ。
それで歌詞のサビの部分にこんな一文があって。

 Don't you know that you're toxic?
 (あなたは自分が「toxic(有害)」だということに気付いてる?)

本来は意中の男性の性的魅力にやられてしまった女性が
その欲望を抑えられない、あなたのセクシーさは「有害」よという、
非常に扇情的な文脈で歌われていたんだけど、
本作では「性欲を抑えられない男たち」に対して
「アンタたちがどれだけ“toxic”だか、わかってないでしょ?」
という文脈で使われているわけです。

そしてこれまでブリトニーが仕事として振りまいてきたパブリックイメージを
彼女本人のものだと誤解されてきたように、
本作の主人公カサンドラもまた酒場で泥酔した振りをすることで、
「酒に溺れ、自分を律することが出来ないビッチ」という
彼女本来の姿とはかけ離れたイメージを敢えて周囲の男たちに見せつける。
そしてそんな彼女を見て、男たちは勝手な解釈をするわけです。
「あんなに無防備な女、ヤリ捨てられても自業自得だ」みたいなね。
でもどんなに酔ってても、どんなにセクシーな衣装を着てても、
同意のないセックスは犯罪以外の何物でもないわけで、
カサンドラは男たちの勝手な解釈を引き出しては
土壇場で実は素面だったことを暴露して撃退するわけです。


では、なぜ彼女はそんなことをしているのか?
それはまさに大学を中退した理由に直結しているんですね。

カサンドラには4歳からの親友ニーナがいたんですね。
彼女にとってニーナは唯一無二の親友であり、ヒーローで。
そして二人は同じフォレスト大に進学するんだけど、
あるときニーナは学生たちが集まるパーティーで酒を飲まされ、
酩酊状態のまま同級生のアルに犯されてしまうわけです。
しかもその行為は複数の男子学生が見ている前で行われ、
そのときに撮影された画像や動画が学内で拡散、共有されてしまうわけです。
当然ニーナは大学側に訴えるも、大学側は彼女の訴えを握りつぶし、
また同じパーティーに参加した女子生徒マディソンも事実を知りながら彼女を弁護せず、
そして裁判でもアル側の弁護士ニーナが
他のパーティーに参加する写真をネットで調べ上げ、
「パーティー三昧の彼女には自業自得」というイメージを植え付けるわけです。
結局、裁判で負けたニーナは失意の中で自ら命を絶ち、
アルはそのまま医師として順調にキャリアを築き、
同窓生も学校側も、そんな事件がなかったかのように生活している。
そしてパーティーに参加しなかったカサンドラは自責の念に駆られ、
大学を中退して、現在の仕置人稼業を始めるわけです。
で、そのニーナを死に追いやった張本人のアルが地元に帰ってきたことで、
カサンドラは長年決意してきた復讐計画を実行に移していく、というわけです。

で、ここで重要になってくるのは、
カサンドラがターゲットにしているのは実行犯のアルだけじゃないんですね。
ニーナの被害を知っていたのにアルの罪を証言しなかったマディソンや、
彼女の訴えに対して真剣に向き合わず、むしろ男子生徒であるアルの将来を考慮して、
徹底した調査をしなかった大学の女性学部長ウォーカーにも復讐の矛先を向けるんです。
つまりですね、教育機関のような閉ざされた空間の中で起きた犯罪は、
被害者と加害者だけでなく、その間にいてその犯罪事案を知りながら
それまでの各々の関係性によってその事実を黙認し、
結果的に加害者の罪を容認してしまう存在というのが必ずいるんですね。
それも組織の中ではそういう存在が大多数だったりする。
もちろん実行犯が断罪されるのは当然として、
その周囲にいて間接的にその罪を成立させてしまった人々もまた同罪なんだ、
むしろこっちの方が悪質であるとすら思えるような演出がなされてるんですよ。

終盤、カサンドラがついにアルと直接対決をする場面。
舞台は森の中の小屋で、学生時代の仲間と独身最後の乱痴気騒ぎ、
いわゆる「バチェラーパーティー」をやっているところに
彼女は雇われたストリッパーの振りをしてやってくるんですね。
ところが、当のアル自身は彼女の突然の来訪に困惑してるんですよ。
「結婚前だし、呼んだ覚えはない」ってな感じで紳士的な振る舞い。
むしろ彼の仲間たちの方がよっぽど盛り上がってるわけです。
ここからラストまでのアルの行動を見ていると、
明らかにニーナの一件は彼の一了見で行われたことではなく、
周囲の仲間達が寄ってたかってそそのかしたのではないか?と思えてくるんですよ。
で、まさにこのアルと仲間たちの関係性が、
そのまま冒頭のバーでのサラリーマンたちのやりとりと
対になっていることにも気付くんですね。
つまり冒頭のジェリーも同僚にそそのかされてカサンドラに声を掛けてる。
「ここでモノに出来なきゃ男じゃないぞ!」みたいなね。
そしてそのそそのかした人物が後にどういう行動を取ったか?
そこまできちんと目を配って観ると、この話が誰にとっても他人事じゃなくなってくる。
つまり組織内で起きた犯罪行為を知っていながら黙認する、
あとで知ったのにも関わらず不問にする、
そして自分がそんな被害には遭わないという安心感を得るため、
被害者と自分との相違点を探して「理由があった。自業自得だ」と糾弾する、
これらは全て加害行為と変わらないんだということが見えてくるわけです。


カサンドラが男たちに何をしたのかが具体的に語られないところには、
物足りなさを感じる人もいるかも知れませんが、
そこはこの作品では指して重要ではないと思います。
本作は亡き親友の無念を晴らすための復讐劇の形を取りながら、
現代社会に根強く存在する女性差別と、
さらにそれを結果的に容認してしまう人々までも糾弾する意欲作でしたね。
そして罪を告発されたとき、それとどう向き合い、どう償っていくか?
それもまた試されているような作品でした。

 

 

 

 

 

 

[2021年7月25日 TOHOシネマズ六本木ヒルズ 9番スクリーン]

 

 

 

 

 

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