どうも、はちごろうです。

 

 

 

では、映画の話。

 

 


「100日間生きたワニ」

 

 

 



2020年初頭にツイッター上で発表されて話題になった、
きくちゆうき原作の4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」を
「カメラを止めるな!」の上田慎一郎と、
その妻でアニメ監督のふくだみゆきが共作でアニメ映画化。

あらすじ

桜が満開の3月のある日。仲間と花見をするため公園に向かっていたワニは、
風で飛ばされたヒヨコを助けようとして走ってきた車の前に飛び出した。
その100日前。ワニはバイク事故で骨折して入院した友人のネズミを見舞っていた。
ネズミが退院後、二匹は近所の行きつけのラーメン屋「極真ラーメン」に行く。
そこでワニは自分のどんぶりから煮卵を譲って快気祝いとした。
その頃、ワニはバイト先のカフェで知り合ったセンパイ(ワニ)に片思いしていた。
友人のモグラからも告白しなよと言われていたが、
ワニはちょっとした勘違いから嫌われたと思い込み、衝動的にバイトを辞めてしまう。
しかし後日、意を決して彼女に会いにいったワニはLINE交換に成功。
一緒にアクション映画「ドクターアニマル2」を観に行ったが、
上映中にポップコーンをぶちまける失態を演じてしまう。
帰りの喫茶店でひたすら謝ったワニに、センパイは夏に続編があることを教え、
また一緒に行こうと提案するのだった。
そんなこんなで交際は順調。ネズミと一緒に毎日やってる格闘ゲームの腕も上がり、
本格的にプロゲーマーになる目標を掲げて大会に挑戦するなど、
ワニたちは楽しい日々を過ごしていた。

花見の日から100日後。
ネズミやモグラ、センパイたちはあの日をきっかけに疎遠になり、
それぞれがいなくなったワニの喪失感を抱えて暮らしていた。
そんなある日、モグラはかつてバイトしていたリサイクルショップの元同僚で、
恋人のイヌに会いに来たとき、バイト募集の張り紙を見て店に入ってきたカエルと出会う。
カエルは最近町に引っ越してきたといい、友達を作るためか彼らに人懐っこく接してくる。
しかしリサイクルショップのバイト募集は終わったあとで、
モグラたちはいまだセンパイが働く近所のカフェのバイト募集を紹介する。
そんなカエルは愛車のバイクを修理するため、
町のバイク屋で働くネズミとも顔見知りになるのだった。



上田監督らしい「優しい嘘」



原作はツイッター上で発表されて話題になった4コマ漫画で。
もちろん連載当時それなりに話題になってたから知ってはいました。
擬人化された動物たちが都市で暮らす若者として、
働いたり、遊んだり、恋愛したり、という何気ない日常。
しかしタイトルにあるように、主人公のワニが100日後に死ぬ設定で、
連載が進むと同時にそのワニの寿命もカウントダウンされていく。
そうすると何でもない日々が途端に貴重に思えてくるし、
また将来について語るワニたちの姿に何とも切ない気分になる仕組みで。
ただ、個人的にはそのアイディアが上手いなと思っていた程度で、
連載当時はそこまで作品にのめり込んでいたわけではない。
TL上での盛り上がりを、テレビなどがさらに追いかけ始めた頃でも
当該アカウントをフォローすることもなく、
「最後はタイトル通り死ぬんだろうな」程度のことしか思わなかった。
だから連載終了直後に矢継ぎ早に書籍化やタイアップが発表されたこと、
それに伴い当該アカウントも削除されたことに伴い、
熱心に追いかけていたファンが一気にアンチ化したことにも
「ふーん・・・」以外の感情はなかったんですよねぇ。

ネットで発表され、無料で閲覧出来ていたマンガが書籍化される。
そのこと自体は別にいまに始まったことではないけれど、
何でここまで評価がひっくり返ったかというと、
連載終了直後にアカウントを削除したことが大きかったのかな?と。
昨日まで「この先はどうなるんだろう」と楽しんでいたマンガを
最終回を読み終わったと同時に取り上げられ、
「読み返したければ金を払え」って言われるような感じというか。
でもね、結局この件で憤ってる人ってこの作品に対して
「金払って読むほどの作品じゃない」って主張してるようなもんで、
それはそれで一生懸命描いてきた作者に失礼な感じがしますけどね。

ちょっと話はそれますが、これとは正反対の流れで騒動になったのが
あの西野亮廣の「えんとつ町のプペル」の全ページネット無料配信騒動。
販売されている絵本を作者である西野さんがネットで無料公開したことに対し、
「実際に金を出して買った読者に失礼」とか
「共同で作画したデザイナーさんにも失礼」みたいな批判が噴出したけれど、
結局このことをきっかけに絵本自体の知名度が上がり、
またディスプレイ越しでは絵の緻密さを最大限楽しめないと気付いた閲覧者が
実際の本を買う動きに繋がって、逆に売り上げを伸ばしたわけです。

なんていうか、これらの件から思うのは
作品を「閲覧すること」と、実際に「所有すること」には雲泥の差があって、
そこを混同してる人が意外と多いんだなぁということで。


閑話休題。
そんないわくつきというか、作品そのものよりも
その周辺の事件ばかりが先行して語られてしまった本作。
監督は「カメラを止めるな!」で一躍時の人となった上田慎一郎さんと、
上田さんの妻でアニメーション監督のふくだみゆきさんの共作。

上田監督の作品は「カメラを止めるな!」後の2作、
共同監督作品「イソップの思うツボ」と単独最新作の「スペシャルアクターズ」、
このどっちも公開当時に鑑賞したんですけれど、
この3作を見て思ったのは上田監督って「映画は嘘である」、
そして「その嘘でどれだけ観客を楽しませるか」という信念があるのかなと。
映画館を出るときには観客に笑顔でいてほしい、そう思ってる印象で。
一方、共同監督のふくだ監督は「こんぷれっくす×コンプレックス」という、
同じクラスの男子生徒の脇毛に執着する女子中学生を描いた作品が

各方面で評価された監督さんで。

この二人がどう本作で分業したのかはわからないんですが、
脚本自体は上田監督が担当したようなんですね。
で、本作は主人公のワニが死ぬまでの100日間と、
遺された動物たちの100日後に起きた出来事の2部構成になってる。
それでこの後半の100日後は上田監督によるオリジナルの部分。
この後半部分で、原作には出てこないオリジナルのキャラクターとして
関西出身の青年カエルが登場するんですね。
このカエル、とにかく人懐っこいというか、
ちょっとウザいくらいに知り合った人々と関係を持とうとする。
その圧の強さにネズミたちは閉口し、距離を取ろうとするんだけど、
実はネズミには誰かと繋がりたい、
誰かと繋がらざるを得ない事情があって・・・というね。
この展開がいかにも上田監督らしいなぁと思いましたね。
原作では「ワニはヒヨコを助けようとして車に轢かれました」ってところで終わる。
いわゆるバッドエンドで終わっていくわけです。
しかし上田監督は後半部分を付け加えることで、キャラクターたちに笑顔を取り戻そう、
ハッピーエンドで話を終わらせようとした感じなんですよ。
大切な仲間の喪失を経て、それでも仲間同士で寄り添って生きていく、
彼ら彼女らが前を向いて歩き出すまでの希望の話になってるんですよ。


といったようなわけで、上田監督の優しさがにじみ出てる一本でした。
まー、皆さんいろいろと思うところはあるでしょうけど、
作品はやはり観てから判断する方がいいです。
経験上、「評判悪いから観ない」って人より
「評判悪いけど観てきた」って人の方が感想に説得力があるので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[2021年7月18日 ユナイテッド・シネマとしまえん 1番スクリーン]

 

 

 

 

 

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