どうも、はちごろうです。

 

 

 

先日、このコロナ禍で経営危機に陥る都内の寄席を守ろうと、

東京の落語家たちがクラウドファンディングを実施。

1億円以上の資金が集まったと話題になってました。

都内に寄席がいま4軒あるんですが、

なかには閉館してしまうと法律の関係で

二度と同じものが建てられないところまであるので、

業界にとっては本当に死活問題なんですね、これ。

それだけでなく、寄席が開催できなくなったことで研鑽が積めない、

端的に言えば食えない若手を救済する企画も出るなど、

行政が頼りにならないので悪戦苦闘しているようです。

今回紹介する作品は、苦境のミニシアターを助けるために

長年録りだめていた映像を提供することに決めた人気落語家の話。

では、早速映画の話。

 

 

 

「バケモン」



人気落語家、笑福亭鶴瓶に17年間密着したドキュメンタリー。
監督はTVディレクターの山根真吾。ナレーションは香川照之。


あらすじ

2003年。テレビやラジオを中心に長年活躍してきた笑福亭鶴瓶が

本来の本業である落語家への回帰を宣言する。
同時に師匠である故・六代目笑福亭松鶴の十八番「らくだ」に挑戦すると発表。
それを聞きつけたTVプロデューサーの山根真吾は彼に密着取材を申し出る。
それに対し鶴瓶は、自分が生きているうちは公表しないことを条件に許可を出した。
それから17年後、コロナ禍にさらされる2020年。
彼が再び独演会ツアーで「らくだ」を上演すると決断する。

 

 

 

「らくだ」を通して現代を問う鶴瓶の挑戦




落語家、笑福亭鶴瓶。
テレビでは観ない日はないというくらいの売れっぷりですね。
元々は六代目笑福亭松鶴門下のれっきとした落語家なんだけど、
若い頃からテレビやラジオでタレントとして人気を博してて。
ところが50歳の時に鶴瓶さんは落語に回帰するんですね。
これは当時「六人の会」という、春風亭小朝が発起人となって
林家正蔵(元・こぶ平)、春風亭昇太、立川志の輔、柳家花緑、
この人気落語家6人が組んだユニットに参加を促されたことがきっかけで。
そして時を同じくして、鶴瓶さんは古典落語の名作「らくだ」に取り組み始める。
これは師匠・松鶴の得意とする演目で、それなりに思い入れも深い作品。
だからこそ「鶴瓶が『らくだ』をやる」ということ自体が当時話題にもなって。

「らくだ」という噺は、「らくだ」とあだ名される乱暴者が
ふぐの毒に当たって長屋で亡くなっているのを兄貴分が発見。
葬式を出してやろうとした兄貴分は、たまたま通りかかった屑屋を脅し、
長屋の住人たちから香典と、酒と肴を持ってくるよう伝えてこいと命じる。
日頃らくだに困らされてきた長屋の面々が承諾するわけがないと渋る屑屋に、
兄貴分は「グズグズ言うなら、らくだの死骸を持って行くと脅せ」と言い出し、
らくだに当時流行っていた「かんかんのう踊り」をさせるとまで言い出す。
屑屋の話にまさかやらないと思っていた長屋の大家たちだったが、
屑屋に担がれてやってきたらくだの死骸に恐れおののき慌てて承諾。
夕方までには望み通りの酒と肴がらくだの家に届く。
これ以上関わりたくない屑屋は「仕事に戻りたい」と願い出るが、
兄貴分は世話になったからと酒に付き合えと迫る。
結局脅されて酒に付き合うことになる屑屋だったが、この屑屋が重度の酒乱。
酔っていくうちに本性が現れ、兄貴分以上にガラが悪くなっていく、という内容で。

何で「らくだ」のあらすじを書いたのかというと、
この演目が本作での重要な軸になっているからなんですね。
「鶴瓶さんの活躍に迫ったドキュメンタリー」と言われれば
どうしたって「テレビタレント」としての氏を期待してしまうんだけど、
本作はむしろ「落語家」としての鶴瓶さんにスポットライトを当て、
さらには「らくだ」という噺の歴史、噺を作ったとされる四代目桂文吾、
そしてさらにそれを磨き上げた六代目笑福亭松鶴の人生にも目を向けながら、
2020年のいま、なぜ鶴瓶がこの演目を演じるのかに迫っていく。
そしてこの3人に共通する「破天荒」「豪放磊落」なパブリックイメージと、
その裏に隠された繊細で緻密な一面をも描き出してくんですよ。


だからこう、どちらかというと落語ファン向けで、
テレビタレントとしての活躍や交遊録、人気の秘密を期待すると
少し肩すかしを食らってしまう感じがしました。
個人的には「らくだ」という演目の歴史が知れて楽しかったですが。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

[2021年7月4日 新宿武蔵野館 1番スクリーン]

 

 

 

 

 

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