どうも、はちごろうです。

 

 

週明けはやっとオスカーノミネーション。

近年、配信作品が有力候補になっているので

日本でも事前に候補作が見られるようになりました。

とはいえ、それでもまだ見ていない作品がいくつもあり、

早いところ時間作って見ておかねばと思ってます。

では、映画の話。

 

 

 

「あの夜、マイアミで」
 

 

 

 



「ビール・ストリートの恋人たち」のアカデミー賞女優レジーナ・キングが
長編映画監督に挑戦した一本。
カシアス・クレイ、サム・クック、ジム・ブラウン、そしてマルコムX。
歴史に名を残す4人の黒人青年が集った一夜の出来事を描く。

あらすじ

1964年2月25日。マイアミ。
この日、ローマオリンピック金メダリストのヘビー級ボクサー、
カシアス・クレイがWBA・WBC統一世界ヘビー級王者になる。
客席には彼の友人でもある黒人指導者マルコムXとソウル歌手サム・クックが、
そしてリングサイドにはNFLのスター選手ジム・ブラウンが
ゲスト解説者としてそれぞれ観戦していた。
試合終了後、4人はマルコムの滞在する黒人向けモーテル、
ハンプトン・ハウスに集合してカシアスの勝利を祝う。
だがマルコムがイスラム教徒だったため酒も肉料理もなし。
4人は冷蔵庫にあったアイスクリームで互いの近況を語り合った。
この日、マルコムの思想に傾倒したカシアスはイスラム教への改宗を決意し、
彼の所属するイスラム教団体「ネーション・オブ・イスラム」入党を予定していたが、
団体の指導者ムハンマドをはじめ、上層部の体質に不信感を募らせていたマルコムは、
脱退してより教義に忠実な団体を設立する計画を抱えていた。
一方、ハリウッドから西部劇映画への出演を打診されていたジムは、
これをきっかけに現役引退を真剣に考えていた。
そんな中、白人へ媚びるようなサムの音楽活動をマルコムが批判。
二人は険悪な状態になっていくのだった。

 

 

 

あの夜を超えても続く「搾取」



オスカー女優レジーナ・キングの劇場長編初監督作。
元々は戯曲で、実際の4人に親交はあったようですが、
本作のような事実はなかったようで。
あくまで4人のキャリアを参考にした創作だそうです。

さて、本作の主役となるこの4人の有名人には共通点があって。

まず「黒人達のヒーロー」であること。
「カシアス・クレイ」と言われてもピンとこない人は少なくないと思うんですが、
彼はイスラム教に改宗したことをきっかけに、
「モハメド・アリ」という名前に改名する。いまではこっちの名前の方が有名ですね。
私も「モハメド・アリ」の方を先に知ったのでエラそうなことは言えないですが。
「チョウのように舞い、ハチのように刺す」とも言われたプレイスタイルで、
オリンピックで金メダルを取り、ヘビー級王者にもなったけれど、
一方で人種差別に抗議する発言にも積極的だった人。
次にカシアスにイスラム教改宗を勧める黒人指導者マルコムX。
マーティン・ルーサー・キング牧師と並んで有名な公民権運動の指導者ですね。
過去にはスパイク・リー監督、デンゼル・ワシントン主演で映画にもなってます。
キング牧師に比べると言動は攻撃的という印象でしたけど。
そしてソウルシンガーのサム・クック。
元々ゴスペルグループのリードヴォーカルとしてデビューした後、
1950年代にソロに転向し、ソウルシンガーとして成功を収める。
そして独特な歌声で黒人のみならず白人の人気も獲得してたようで。
さらにNFLのフットボール選手ジム・ブラウン。
彼は現役時代、ランニングバックとしてラッシング、
つまり試合中にボールを持って走った距離の記録を作った選手で、
いまでも伝説的な存在としてその名が上がるようです。
つまり4人とも、アメリカ社会に大きな影響を与えた若者達だったわけです。

しかしながら、彼らは4人とも「才能を搾取され続けた人」でもあるんですね。
カシアスはアメリカ代表としてオリンピックで金メダルを獲得し、
プロ転向後もボクサーとして優秀な成績を収めながら
ベトナム戦争への徴兵を拒否して王者を剥奪される。
マルコムは米のイスラム教団体ネーション・オブ・イスラムの信者獲得に貢献。
しかし団体幹部は彼の活動で大きくなった組織で私腹を肥やすようになる。
サム・クックはソウルシンガーとしてヒット曲を何枚も世に出すんだけれど、
白人向けのラウンジで歌うと客だけでなく
バックバンドからも露骨に嫌がらせを受ける。
そうでなくてもこの時代の黒人歌手は、
楽曲の権利をレコード会社の白人達に平気で奪われてるんですね。
その構造は以前紹介した「マ・レイニーのブラックボトム」にも出てきます。
で、ジムに関しては作品の序盤に出てくるんだけど、
地元チームのスター選手として勝利に貢献しながらも、
白人のファンはあくまで選手としての彼は歓迎するけれど
プライベートには絶対に近寄らせないわけです。


そしてその4人がまさに1964年に転機を迎えるわけです。
作中で彼らは互いの健闘をたたえ合い、旧交を深めつつ、
それでも互いがキャリアで抱える問題を指摘する。
そしてその問題とはまさに「社会からの黒人の能力搾取」なんですね。
特に後半。政治的思想を敢えて省いた穏健な曲でもって
人種問題を軟着陸させようとしているように見えるサムに対し、
それでは搾取され続けるだけで問題の解決にはならない、
ひいては他の黒人達にも影響が出ると批判するマルコム。
そしてその悪影響を象徴するようにある名曲が登場するんだけど、
私なんかもただなんとなく聴いていたあの曲を、
当時の彼らがどう思っていたのかというのがわかって勉強になりましたね。
そしてマルコムの説得にサムは考えを改め、
それまでとは一線を画すある名曲を完成させるんですね。
それはもうまさに覚悟の一曲でもあるんですけど。


年明けから配信で観た作品の中でも黒人問題を扱った作品、
「マ・レイニーのブラックボトム」「ザ・ファイブ・ブラッズ」そして本作と、
まさにこれ「白人による黒人の才能搾取」の問題で共通してるんですね。
ただこれはもっと普遍的な解釈をすれば
「コミュニティ内の多数派による少数派の才能搾取」であり、
単なる黒人問題と片付けることが出来ない、
多くの人々にとって意識を共有できる題材だなと感じました。
そしてこれもまた「新たな時代の変化に対する葛藤」という意味で今日的な題材だし、
いま観ておくべき作品だったなと思います。



[2021年2月5日 Amazonプライムビデオ]

 

 

 

 

 

※カシアスもマルコムも単独で伝記映画になってますね