どうも、はちごろうです。

 

 

 

ここ数日、暖かくて過ごしやすかったんですが、

また週末にかけて寒さが戻ってくるようで。

考えてみれば来週はもう3月。

真冬に戻って3月を迎えるというのは

なんとも皮肉な話ですね。

では、映画の話。

 

 


「サウンド・オブ・メタル

             ~聞こえるということ~」

 

 

 



本年度全米批評家協会賞で主演・助演男優賞部門を受賞。
ある日突然聴覚を失ったパンクバンドのドラマーが、
新たな人生を受け入れていく様を描く。
出演はリズ・アーメッド、オリヴィア・クック、ポール・レイシー。
監督は「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」の脚本家ダウリス・マーダー。

あらすじ

パンクドラマーのルーベンは、恋人でボーカル&ギター担当のルーと共に
トレーラーハウスで同棲しながら全米各地を点々とする日々を送っていた。
そんなある日、ライブ会場で物販の準備中、
ルーベンの耳が突然聞こえなくなってしまう。
その日はどうにかライブをこなした彼だったが、
翌日病院で検査を受けた結果、両耳とも4分の1ほどの聴力しかなく、
悪化こそすれ、再び元の潮力を取り戻すことはないだろうと言われてしまう。
人工内耳を埋め込む手術には高額な治療費が掛かるため、
ルーベンは翌日もまたルーに病を隠してライブを続けるが、
ついに耐えきれなくなり彼女に病気を告白。
二人は中途失聴者のリハビリ施設を訪ねることに。
施設のリーダーで自身も聴覚障害者のジョーは、
ルーベンに聴覚障害者として生きていくことを自覚させるため、
スマホと車の鍵を取り上げ、ルーとも離れて暮らすことを要求するのだった。



新たな「日常」を生きる、ということ



昨年の始めに、深夜ラジオに占い師のゲッターズ飯田さんが出てて。
彼の占いでは2020年から数百年続いた流れが変わって、
数年間で世の中が新たな価値観に転換していくだろうと言ってたんですけどね。
他の占い師も似たようなことを言っていたようなので、
おそらく時代の潮目に来ていることは本当なのだろうと。
実際問題、昨年はコロナ禍で人々の生活様式も変化を余儀なくされ、
コロナが流行しなくても、例えばBLM運動の世界的な盛り上がりや、
日本だとオリンピックに伴う社会システムの変化を
人々は否応なく受け入れざるを得ない状態になっていたわけです。

去年は漠然とそんなことを考えていたんですが、
昨年公開された作品も結構似たようなテーマの作品が多くて。
というか、そういう作品が琴線に引っかかってたんですね。
つまり、自分たちが当たり前だと思っていたもの、
それは常識であったり、法律であったり、知識であったり、
そういった生活する上でもはや改めて実感することすらなかったものが
脆くも崩れ去ってしまう、もしくは劇的に変化するきざしに対し、
人々がどう対応していくかという話をよく観たなと思ってて。
そして意識を切り替えて順応する人々を善とする一方、
頑なに旧来の常識にすがろうとする人々の戸惑いや苦悩、
怒りもまた同時に描いていたような気がします。


で、そんな「二度と以前のようには戻らない変化」を題材にした作品のなかでも、
本作は非常にシンプルかつ普遍的な問いを投げかけてるなと感じまして。
主人公のルーベンはある日突然原因不明の病で両耳の聴覚を失う。
それまで耳が聞こえることが当たり前だった彼にとっては青天の霹靂で、
日常生活で不自由な生活を強いられることはもちろん、
パンクバンドのドラマーである彼にとっては致命的な出来事。
なによりヴォーカルである恋人ルーの歌声も聴けなくなってしまう。
そこで彼は中途聴覚障害者の自助サークルで生活様式を学ぶと同時に、
人工内耳による聴力回復に一縷の望みをかける、わけです。
この、突然それまでの生活から、人とのコミュニケーションの取り方、
そしてものの考え方に至るまで全て変えることを余儀なくされる不安が
序盤からひしひしと伝わってくるんですよ。

そしてそれは同時に彼の恋人であるヴォーカルのルーも同様で。
彼女は家庭内での辛い過去が原因で家を出て、
いろいろあった末にルーベンと一緒に暮らしてるんですね。
彼女には彼がいることで精神的な安定を得ている。
でも聴力を失い、「耳の聞こえない日常」を学ぶことになったルーベンにとって、
自分がいると妨げになると理解したルーは
自ら彼と距離を置くことを受け入れるわけです。
そして彼女もまた「ルーベンのいない日常」を学んでいき、
またルーベン自身も「ルーのいない日常」を次第に学んでいくというね。

そして中盤、聴覚障害者としての生活にも慣れ、
精神的にも落ち着きを取り戻したものの、
それでも聴覚を取り戻すことに未練の捨てきれなかったルーベンは、
何とか金を工面して人工内耳を埋め込む手術を受けるんだけど、
この顛末が実に切ないというか、象徴的な結末を迎えるんですよ。
そしてそれを経た彼が辿り着いた境地を象徴する最後の表情。
それをどう捉えるかは見た人それぞれで違うと思いますが、
私はとても腑に落ちたんですよねぇ。


といったようなわけで、私はこの作品の主人公の葛藤に対して、
否応なく突きつけられた変化に対する人々の姿、

それはコロナ禍のいまを生きる我々の姿を感じました。
これ観た後、何日もこの作品について考えさせられた1本でした。




[2021年1月17日 Amazonプライムビデオ]