どうも、はちごろうです。

 

 

昨日、ゴールデングローブ賞のノミネートが発表になり、

いよいよハリウッドの賞レースも本格的になってきました。

今年は大方の予想通り、配信作品が絶好調で。

ノミネート数もかなりの数になっている様子。

となると、日本でも発表前に作品をチェックできるというわけで、

嬉しい反面忙しくなっております。

実際問題、主要候補の作品でまだ見ていない作品がいくつかあり、

忙しい合間を縫っていつどれを見ようか思案中です。

では、映画の話。

 

 

 


「Away」

 

 




2019年のアヌシー国際アニメーション映画祭で、
実験性・革新性のある長編アニメーションを対象とするコントルシャン賞受賞。
3年半もの時間をかけてたった一人で作り上げた長編アニメ。
監督はこれが長編デビューとなるラトビアのギンツ・ジルバロディス。
 

あらすじ

荒野に一本だけ伸びた枯れ木に、パラシュートが引っかかりぶら下がる青年。
青年が目を覚ますと遠くから黒い巨人が近づいてきた。
巨人に飲み込まれようとしたその時、青年はパラシュートを外して地上に降り、
そのまま岩場に出来た道をたどって巨人から逃げ出した。
岩で出来たゲートをくぐり、道を進んだ先には
自分の身の丈より高い草の生えた丘があり、
丘の上からは海が見え、草の間には黒い石版がそこかしこに建てられていた。
丘をしばらく探検していた青年は、1個のバックパックを見つける。
その中には水筒や望遠鏡、オートバイの鍵に地図が一枚。
地図を調べると、島を模した絵の左下に巨人が描かれ、
そこからゲートのような半円が右上に続き、街を模した絵に繋がっていた。
巨人は最初にくぐったゲートの前から青年を見つめている。
青年は意を決し、オートバイに跨がり巨人の側をくぐって
街があると思われる場所まで走り出すのだった。

 

 

 

バイクは誰の前にも用意されていて・・・



ラトビアの青年がいちから作り上げた長編アニメということなんですが、
そもそもラトビアってどこだっけ?確かバルト三国のひとつで・・・って
その程度の認識しかないんですが、
予告編を見て「これを一人で?」って素直に思っちゃう。

あのー、ニッポン放送火曜深夜の「星野源のオールナイトニッポン」で
「ジングルのコーナー」ってのがあるんですけどね。
リスナーから番組のジングル、いわゆるCMが終わって、
スタジオに戻るときに流れる短いBGMを募集して、
優秀な作品は番組のエンディングでもう一度流すってコーナーなんですけど、
ここに投稿される曲がどれもレベルが高いんですよ。
ある人は作曲用ソフトを使ったり、またある人は実際に楽器を演奏したり。
しかも10代、まだ中学生高校生の投稿音源もバンバン採用されてて。
こうした若いリスナーからの音源に対して、星野さんはよく
「僕の若いころにはこういうツールがなかったからなぁ・・・」って言ってて。
スマホやパソコンがここまで普及する前は素人が趣味で作曲する、
いわゆる「同人音楽」って結構ハードルが高かったんですね。
機材も買わなければいけないし、当然音楽の素養があった方がうまく作れるし。
確かにいまでも質の高いものを作るには当然いい機材を揃えた方がいいし、
音楽的知識もあった方がいいんだけど、
初音ミクやGarageBandみたいな音楽作成用のソフトの登場は、
作曲に興味を持っていた人が始めるハードルを飛躍的に下げ、
結果的に同人音楽の裾野は広がったわけですよ。

つまり何が言いたいのかというと、音楽に限らず、
表現活動をするハードルっていま相当下がってるってことなんですよ。
この作品の監督さんもパソコン一台でこれを作ってたと思うと、
「表現したいと思ったときが表現するとき」なんだなと。
能書きはいいからとりあえず作り始めちゃえよ!って改めて感じますね。


さて、じゃあ本作はどんな作品だったかというと、
これが日本のアニメではあんまりお目にかかれない、
台詞が一切ないサイレント作品で。

飛行機からパラシュートで脱出したと思われる青年が、
木にぶら下がって助かったのに気付いたところから始まって。
で、そこに黒い半透明の巨人がやってくるんですね。
その巨人に追いつかれる、取り込まれると死ぬだろうってことが
説明されなくてもなんとなくわかるんだけど、
青年はその巨人から逃れ、近くにあったバイクを使って旅に出るんですね。
バイクには彼のいるとおぼしき島の地図があって、
そこには地図の左下に巨人の絵、右上に町が描かれてる。
そこで青年は町を目指して爆を走らせることを決めるんだけど。

こういった台詞の一切ない作品って、
目に映るものだけで状況を解釈するしかないので結構頭を使う。
だからこそ面白いんですけどね。ただ、気を抜くとすぐ寝ちゃう面もある。
それと解釈が人それぞれになるので観た人の数だけ感想が違う。
だから観た人の間で会話が弾むという側面もあるんですけどね。

閑話休題。
で、この手の「主人公がある地点からある地点まで移動する話」ってのは
たいていは「人生」のメタファーなんですね。
人が生まれて、生きて、死ぬまでを描いてることが多いんですけど、
つまり「島」自体が人間の一生そのものを表現してるんだろうなと。
そう考えると、冒頭からなんとなく画面の中に死の匂いが漂ってるというか。
島の至る所に黒い石版がまるで墓石のように立ってる光景が出てきて、
おそらくは成長できずに潰えてしまった命のことなのかな?みたいな。
だから黒い巨人に追いつかれる=「死」なんだろうと解釈しながら観てたんですが、
でもこの話、旅のゴールを「町」に設定してるんですよ。
「町」ってのはいわゆる「社会」の象徴なので、
この話は人生の中でも生まれてから社会に出るまで、
つまり「自立」のメタファーなんだろうなと。
となると、冒頭から主人公に追いつこうとする黒い巨人は
おそらく「親」を意味しているんだろうと私は考えました。
黒い巨人が主人公につきまとうのはいわゆる親の束縛を象徴してて、
そこから逃げ切ることで少年は町に辿り着く、
つまりは成長するってことを意味してるのかなと感じました。


ま、この解釈は私個人のものなので他の人がどう解釈したのか、
どんな解釈があるのか、ちょっと訊いてみたいです。
ですが、おそらくこの作品を観た人の大多数と共有できるのは、
エンドロール後に流れる日本語版エンドロールは完全に蛇足だったってことかなと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[2021年1月4日 新宿武蔵野館 2番スクリーン]

 

 

 

 

 

※サイレントのアニメ作品というとこんなのも

 

 

ちなみに日本語版エンドロールで流れる曲がこれ。

曲自体に罪はないんだけどねぇ・・・