どうも、はちごろうです。

 

 

 

ついに今年もあと1ヶ月になりましたね。

さすがに寒くなってきましたけど、

こんなご時世ですのでちょっとした寒気でも怖い。

ただ単に寒いだけなのか、それとも悪寒なのか。

その判断に毎日神経を尖らせてる有様です。

皆さま、くれぐれもお大事に。

では、映画の話。

 

 

 

「おらおらでひとりいぐも」

 

 

 



若竹千佐子原作の小説を「南極料理人」の沖田修一監督が映画化。
夫に先立たれ、子供たちも独立して一人で暮らす高齢女性が
自らの過去と現在、未来について考えを巡らせながら日々を過ごす姿を描く。
出演は田中裕子、蒼井優、東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎。

あらすじ

埼玉県狭山ヶ丘で暮らす日高桃子、75才。
夫の周造には先立たれ、息子と娘も独立。
現在は庭付き一戸建ての住宅で一人暮らしをしている。
「どうせ起きなくても、どうせ、どうせ・・」という心の声を無視して起床。
目玉焼きとトーストで朝食を摂り、腰に湿布を貼って整形外科に。
最近は図書館で古生物の図鑑などを借りて独学で研究するのが日課。
図書館の顔見知りの職員、沢田さんからは大正琴や太極拳など、
何かと習い事を誘われるが、そんな気にはなれず断ってばかり。
そして近々、新しい軽自動車をリース契約しようかと考えていた。
そんなある夜、居間で一人食事を取っていると、
どこからともなく自分と同じ恰好をした青年が3人現れる。
彼らは口々に「おらだばおめだ(俺たちはあなただ)」と言う。
ついに認知症の症状が出たのかと心配した彼女は、
翌日行きつけの整形の若い先生に相談してみるも
彼からは「詳しいことは国立の総合病院で」としか返答しなかった。
そこから彼女は若い頃からの自分の人生を回想するようになる。
1964年10月10日。桃子は組合長の息子との結納を済ませたものの、
自由を求めて岩手から逃亡。東京の飲食店に住み込みで働くように。
そのうち、店の常連客で同じ東北出身の工員、周造と出会い結婚する。
しかし、彼女は周造への愛情や彼と家庭を築いた人生を尊いと感じるものの、
一人で自立し、自由に生きられなかったことへの後悔の念も抱えていた。

 

 

 

老いてもなお、毎日は脳内バラエティ



ライムスターのアルバム「POP LIFE」の中に
「ほとんどビョーキ」って曲があって。
心身共に何かの病を抱えて生活する現代人の胸の内を歌ってるんですが、
そのなかにこんなフレーズがあるんですね。

  趣味はウォーキング シャツは抗菌
  だがその秘めた願望は猟奇
  世間にバレたらきっとお仕置きされちゃう
  鬼畜な妄想でウッキウキ!

端から見れば人畜無害なように見えてる人も、
本人の心の中にはどす黒い欲望や狂気が渦巻いてるかもしれない。
それは例えば、午前中の公園のベンチに腰掛け、
仏様のような表情で日向ぼっこしている老人でも、
頭の中では世界を征服する算段でも付けてるかもしれないわけです。

この作品、ひと言で言えば「独居老人の日常を描いただけの話」。
こう聞くと「それ、面白いの?」って思うかも知れないんですが、
人の日常というか、一見すると何もないような日々の中にも、
そこで生活している人の心は目まぐるしく動いているわけです。
本作の主人公である桃子さんは、
ある日突然3人の青年の幻を見るようになるんですね。
それは彼女の心の寂しさが具現化されたもの、
いわゆる「イマジナリーフレンド(空想上の友人)」みたいなものです。
ただ、彼女の前に現れる幻はもう一人いて、それが「どうせ」さん。
朝目が覚めると布団の上に覆い被さってきて、
「どうせ起きても意味ない」とつぶやくんですね。
要はこれ、彼女の中にある「怠惰」が具現化したもので。

つまりですね、本作は彼女の頭に浮かんだ空想や、自問自答、
過去の回想などを実際の俳優やセットを使って
具現化して見せている作品なんですよ。
我々だって自分の中に相反する考えで迷っているときに、
その意見を代表するようなキャラクターを頭の中で作って
脳内会議をするようなことだとかあるわけでね。
昔からあるでしょ?頭の中で天使と悪魔が、みたいな。


そんな心の中が大忙しの高齢女性を田中裕子さんが演じてるんですが、
これ、田中裕子さんでなければ成立しなかったんじゃないか?
というくらいドンピシャのキャスティングだったなと。
田中さんというと昨年、白石和彌監督の「ひとよ」って作品で
子供たちを守るために暴力夫を轢き殺し、
刑期を終えて帰ってくる母親を演じてたんですけどね。
相手を殺すことに対して同情できるだけの理由があったにせよ、
殺人という一線を踏み越えてしまうまでには
多くの人は葛藤を抱えるわけですよ。
でも彼女の場合、その一線に対する迷いがなさそうというか、
まるで近所に散歩にでも行くような足取りで踏み越えてしまうような、
常識や理性のどこかが大きく欠落しているような風情があって。
それが本作の、妄想や空想にふける主人公の雰囲気にはぴったりだったなと。


年齢を重ねるとまさに本作の桃子のように、
過去や現在の記憶、未来への不安や恐怖、
自分の行為に対する自画自賛や、後悔の念など、
様々な記憶や感情が頭の中にはごった煮状態になってて、
それが浮かんでは消えていくようになるんですけど、
この主人公の感覚に自分も共感できるようになったのも
年を取ったという証拠なんでしょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[2020年11月22日 ユナイテッドシネマとしまえん 2番スクリーン]

 

 

 

 

 

※人が頭の中で考えを巡らす様子を描いた作品というと

 

 

 

文中で引用したのでこれも