どうも、はちごろうです。

 

 

 

このブログをもって鑑賞済み作品の感想ストックは打ち止め。

次回紹介する予定の作品はあさって観に行く予定です。

それにしても、今年の年末は大作が少ない分、

鑑賞したい作品が少なくて正直だいぶ楽だなと感じてまして。

今年の年末年始こそは余裕のある休暇を過ごしたいです。

では、映画の話。

 

 


「薬の神じゃない!」

 

 




2018年の中国で記録的大ヒットを果たした犯罪ドラマ。
上海で強壮剤を売っていた男が、
未認可の白血病治療薬を密輸する羽目になった顛末を描く。


あらすじ

2002年。上海でインド産の強壮剤販売店「王子神油」を営むチョン・ヨン。
だが店の売り上げは振るわず家賃は滞納、寝たきりの父親を抱え、
別れた妻とは息子の親権を巡って訴訟沙汰になっていた。
そんなある日、店に慢性骨髄性白血病患者のリュがやってくる。
彼が言うには、中国国内で販売・使用できる白血病治療薬は
スイスの製薬会社が販売するグリニックだけで、ひと瓶4万元もする高価な代物だが、
インドには同じ薬効の薬が桁違いに安価で手に入るという。
彼はそれをインドから密輸して欲しいと依頼してきたのだ。
最初は尻込みをしたチョン・ヨンだったが、直後に父親が脳出血で倒れ、
店もついに不動産屋に封鎖されたことで一念発起、インドに買い付けに行くことに。
現地の販売元と交渉の末、ひと月以内に売りきる約束をして100瓶を買い付ける。
その約束を履行すれば、晴れて販売代理人として認めるというのだ。
最初はリュとともに薬を手売りしていたチョン・ヨンだったが、
素人の売りつける薬に患者達は誰も見向きもしなかった。
そこでリュは白血病患者たちのネット掲示板の管理人で、
罹患した娘を一人で育てるダンサーのスーフェイに協力を依頼する。
さらに患者達と共に教会で自助グループを開くリウ牧師、
薬を盗んだことがきっかけで仲間になった青年ボン・ハオと共に
彼らは上海市内で治療薬を売りさばき、莫大な売り上げを手にするのだったが・・・

 

 

 

この世に病はただひとつだけ



2014年に実際に起こった「偽薬事件」を題材にした作品だそうで。
この「薬価」に関するジレンマというのは古今東西、
万国共通で起きているものなんでしょうね。
つまり、良い薬というのは開発に費用も年月の掛かる。
だから製薬会社は開発した薬をそれ相応の値段で売りたい。
でも患者側からすればその薬がなければ生きていけないので、
日常的に使うためにはなるべく安価で手に入れたい。
しかもその病が寛解困難なものなら尚更で。
でまぁ、その差を埋めるために健康保険制度というものが必要なわけで、
実際日本でも国民皆保険制度や高額療養費制度など
さまざまな行政サービスによって国民の医療費は補助されているわけです。
国が国民の生命を守るのは当たり前とはいえ、ありがたいサービスですね。
本作はそうした国側の社会制度の不備と、そこにあぐらをかいた製薬業界によって、
白血病患者達が苦しい生活を強いられていた時代の話で。


本作の主人公チョン・ヨンは元はしがない強壮剤屋のおやじで。
インド製の怪しげな精力剤を売ってる、うさんくささ全開の男な訳ですよ。
でも彼にも養わなければいけない家族がいて、
寝たきりの父親を介護しながら、別れた妻と息子の親権を争ってる。
とにかく金が必要だったチョン・ヨンは、

舞い込んできた密輸話に手を染めていくわけです。
最初は金のため、儲けのためにやっていたものが、
この「薬価」に関する理不尽な現実を目の当たりにすることで
次第に人としての良心に目覚めていく、って話で。

実は最初このあらすじを見たときに思いだしたのが
2013年に公開された「ダラス・バイヤーズクラブ」って作品。
80年代前半の米国で、自堕落な生活をしていたカウボーイがエイズを発症。
当時エイズはときの共和党政権が「神が同性愛者に与えた罰」と喧伝したことで、
治療薬が国内でまともに流通してなかったんですね。患者への偏見もすごかった。
だからむしろゲイ嫌いだった主人公が発症。独学で知識を得た結果、
「神の罰」でもなんでもなく、ただの病気だということを認識するわけです。
そこから彼は世界中を旅して国内では未認可の治療薬を買い付け、
同じ病で苦しむ患者達に販売していった、って話で。
ちなみにこの作品で主人公を演じたマシュー・マコノヒーは
この演技でアカデミー賞を受賞しました。

で、この「ダラス・バイヤーズ・クラブ」も本作も、
「国が認めていない」という理由で薬効がありながらも
「偽薬」となっている薬を流通させたことで「犯罪者」となる話で。
またその事件で司法が行政の不備にも一定の批判をし、
行政が制度を改めるきっかけとなるのも一緒で。
ただ、「ダラス・バイヤーズクラブ」の場合は主人公自身が患者で、
自分の延命のために奔走していたから商売を辞められなかった一方、
本作の場合は自分が患者ではない、ただの他人からスタートしてる。
ここが本作の肝というか、大きく違うところで。
つまり、主人公は心のどこかで他人事と思ってたわけですよ。
自分は患者じゃないし、とにかく儲かればいいんだと。
だから中盤、本職の詐欺師が彼らの商売を知り、
口外されたくなければ販路をそっくり渡せと言われた途端、
チョン・ヨンはさっさと詐欺師に仕事を丸投げし、
仲間も捨てて一人だけ店じまいするんですね。
だが、彼が手放したものは想像以上に大きかったことを後に知り、
猛烈な後悔の念にさいなまれていくわけです。
そして今度は儲け度外視で薬を売りさばき始めるというね。


社会問題を扱いながらもきちんとエンタメに昇華できてて、
外国の話ではありながらも自国の薬事行政にも思い至れる良作。
そして登場人物がみんなキャラ立ちしててね。
チョン・ヨンを中心とした密売グループの面々だけでなく、
彼らに近づく詐欺師とか、チョン・ヨンの義弟で
彼を追い詰めることになるツァオ刑事に至るまで、
作中で彼らが思い知らされる「薬価のジレンマ」に対して
それぞれが理不尽さを募らせていく過程も印象的なんですよ。
それで主人公のチョン・ヨンを演じたシー・ジュンさんがまた良くて。
最初はうさんくさくて下卑た感じの男なんだけど、
実は本当は息子を愛し、病身の父親を介護するまともな一面もあって。
それが後半、一旦足を洗った後から自分のしたことの重大さに気付き、
そこからどんどん毒気が抜けていって
最後は元の善人になっていく感じがすごいんですよ。
また本作はマスクが重要なアイテムになるんですけど、
このコロナ禍のいま観るとまた違った意味を帯びてくる一本でした。

 

 

 















[2020年11月1日 新宿武蔵野館 3番スクリーン]

 

 

 

 

 

 

 

 

※薬事行政に関する映画というとこんな感じ