どうも、はちごろうです。


最近、腰が痛くて。
どのくらい痛いかと言うと仰向けに寝られないくらい。
自分でマッサージしたり、バンテリン塗ったりしてんだけど、
今回のはどうにもこうにも。早いとこ治さないと。
さて、映画の話。




「誰よりも狙われた男」











ジョン・ル・カレ原作のスパイ小説の映画化。
今年2月、惜しまれつつなくなったアカデミー賞俳優
フィリップ・シーモア・ホフマン最後の主演作。



あらすじ


独・ハンブルク。
9・11の首謀者たちが計画を練っていたとされる港湾都市。
そこに一人のアラブ系の若者が不法入国した。
彼の様子は早速ドイツの秘密機関の知るところとなった。
リーダーのギュンター率いるその組織は国内の正規の諜報機関とは別働隊で、
彼らは国内のイスラム人コミュニティに潜入し、
新たなテロ計画がないか調査、監視を行っていた。
ギュンターたちは不法入国したその若者の正体を突き止める。
イッサ・カルポフ、26歳。チェチェン人。
彼はインターポールから、逃亡中のイスラム過激派の戦闘員とみなされていた。
捜査の過程で、彼は個人銀行ブルー・フレールの頭取、
トミー・ブルーと接触を試みようとしていることを知る。
一方、イッサは人権団体の若き女性弁護士アナベルと接触。
国内で拷問を受けたことを申告し、政治亡命をしたい旨を告白。
同時にブルー・フレール銀行に保管されている父の遺産を引き取るため、
その交渉をサポートしてほしいと依頼するのだった。
ギュンターたちは着実に彼らの周辺調査を進めていくが、
ドイツの諜報機関OPCのモアも同様にイッサを監視していた。
彼の逮捕を急ぐモアに対し、ギュンターはイッサを泳がせ、
彼が最終的に誰と繋がろうとしているかを突き止めようとしていた。
ギュンターは最終的な黒幕を穏健なイスラム教徒の学者で、
慈善活動家のアブドゥラ博士とにらんでいたのだった。




蜂は巣の中に置く、という発想の治安維持



ここでちょっと別の作家さんの話。
浅田次郎の小説「天切り松 闇語り」シリーズの中で、
江戸から明治にかけての東京の犯罪事情というものが紹介されていまして。
古典落語にも出てくるのですが、当時の犯罪者は組織化されていて、
スリにはスリの、空き巣には空き巣の、詐欺には詐欺の親分がいて、
それぞれ手口を教える代わりに、盗んだものは全て親分が管理していたわけです。
それは明治の初期まで続き、警察組織もその構造を一部黙認していたんですね。
たとえばスリの組織を例にとると、東京中のスリ師たちはスリの親分の傘下に入り、
その日一日掏ったもの、場所、相手などを親分に報告し、親分が金品を管理する。
一方、警察側はスリにあった被害者から被害届が出ると
親分に被害の状況を確認。被害通りの仕事があるとわかれば、
金銭なら半返しといって半額を戻し、半額はスリ師たちの元に残る。
そして品物の場合、例えばそれが親からの形見とかの事情があれば
ケースバイケースで持ち主の元に返す、といった仕組むがあったそうです。
こうすることで警察側は犯罪者の把握と管理、そして治安の維持を可能にし、
犯罪者側は自分たちのある程度の身柄の保証と、よそ者の排除が出来る。
そうした治安維持の方法があったというのです。
これは別に取り締まる側が犯罪を容認していたわけでも
犯罪者側と手を組んで私欲にまみれていたわけでもなくて、
人口が増えすぎて警察の能力では監視しきれなくなった町における
現実的な治安維持の方法だったのではないか?と推測されるわけです。
まぁ、巣に入れておけば蜂も危害は加えないだろう、といった感じでしょうか。




「駆除」と称して蜂の巣をつつかないと気の済まない輩



ところが、いつの世にも蜂の巣を全て駆除しなければ気の済まないやつ、
つまりこうした高度な治安維持の流儀を理解できない輩は必ず出てくる。
「犯罪者はすべて排除するべき」という正論を押し通そうとする
自称正義の味方、早い話が田舎っぺぇですね。
当時の東京にも地方からどんどん人口が流入してきて、
それまでの治安維持の仕組みを理解できない連中が増えてしまった。
被害にあった金品が戻ってくるだけでは満足せず、
犯人の処罰まで求める連中が増える一方、
それまでの犯罪組織に入らず、独自に犯罪を犯す連中も増えた。
結局、統制の取れなくなった犯罪者たちが町にあふれるようになり、
警察も犯罪組織を徹底的に排除せざるを得ず、
結果、治安が悪くなってしまったわけです。

何が言いたいのかと言うと、
本作におけるギュンターはまさに前者のやり方で
悪をある程度容認しつつ治安を維持しようと考えてるわけです。
つまり、テロ組織の内部に精通し、コントロールできる人間に鈴をつけ、
その人間を情報源にしてテロリストの動きを掌握するやり方。
一方、彼と対立するモアや、アメリカのCIAなんかはまさに後者。
テロリストを片っ端から取り締まれ!というやり方なわけです。
そして、時代の趨勢は残念ながら後者のやり方に傾いていて、
ギュンターは窮地に立たされていくわけですが。




人間の「弱さ」と同居した俳優、ホフマン



そんな時代の流れに取り残されつつある老スパイを演じたのが
今年惜しくも亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマン。
本作のパンフレットでも評論家さんが指摘していたんですが、
彼は生涯、「ヒーロー」を演じずにこの世を去ってしまいました。
私が初めて彼の演技を観たのは「セント・オブ・ウーマン」という作品。
あのアル・パチーノが念願のオスカーを受賞した作品ですが、
名門校に通う一般家庭出身の特待生が、
冬季休暇中にアルバイトで盲目の軍人の世話をする話でして。
ホフマンはこの作品で保身のために同級生のいたずらを校長に密告する
資産家の家の学生を演じていたんですね。これがホントに嫌な奴で!
下手すりゃパチーノの名演技よりもこっちの方が印象に残るくらい。
で、この作品のあと、例えば竜巻パニック映画の「ツイスター」とか、
映画には出てたけどあんまりパッとしない時期が続いてたんですが、
トッド・ソロンズ監督の「ハピネス」という作品で
女性の家にいたずら電話をかけながらマスターベーションする男を演じて、
世界中のボンクラ映画ファンに強烈な印象を残すんですね。
「あ、こいつは俺たちと同類の、こちら側の人間だ」と。
その後はポール・トーマス・アンダーソン監督の作品の常連となるんですが、
「ブギーナイツ」では主人公の巨根のポルノスターに憧れるゲイの青年、
「マグノリア」では死期の近づく老人を世話するゲイの介護士、
「パンチドランク・ラブ」ではアダルト電話詐欺の元締め、
そして「ザ・マスター」では新興宗教団体の教祖を演じるなど、
万人が共感しにくい役を演じ続けていくんです。
その後も、例えば「コールドマウンテン」では人妻と不倫する牧師を演じ、
「レッドドラゴン」では猟奇殺人犯に白ブリーフ一丁で殺されるジャーナリストを、
「フローレス」では半身まひの隣人を助けるドラッグクイーンを、
アニメ作品「メアリー&マックス」ではアスペルガー症候群の中年男性を、
そして念願のオスカーを受賞した「カポーティ」ですら、
名声のために取材で心を通わせた死刑囚を見殺しにする作家を演じるなど、
一貫して人間の「弱さ」と同居し、その弱さを観客に愛させ続けてきました。
そんな彼が長年ドラッグとアルコールの依存に苦しみ続け、
命を縮めてしまったのはなんとも皮肉なことです。


世界平和という理想のため、誰も信じられなくなった世の中で、
それでも他者との信頼をつなぐことに腐心したスパイが
「正義」の仮面をかぶった「不信」の塊と対峙する姿は、
まさにアンチヒーローを演じ続けたホフマンの誠実さと、
哀しさを体現するようなキャラクターでした。
夭折した名優の演技を是非堪能していただきたい一本です。
是非是非!



[2014年10月26日 TOHOシネマズ シャンテ 1番スクリーン]




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