どうも、はちごろうです。



今日から東京では第27回東京国際映画祭が開幕。
世界中からさまざまな大作・良作が集まる秋の東京の一大イベント。
・・・と思ってるのは映画ファンの中でも実は少数派。
特に東京で映画ファンやってると肌で感じるのは
この映画祭が盛り上がっていたのは15年前ぐらいまでで、
ここ最近は映画ファンの間でも話題にしてる人は
どんどん減っているという印象です。
マスコミでの取り上げられ方もホントに限定的で、
報道されるのはスターがグリーンカーペットを歩く
オープニングセレモニーぐらいなもんで、
だいたいコンペティション部門が話題にならないのは
数ある映画祭の中でも異常としかいいようがない。
この映画祭は構造的な問題をいくつも抱えていて、
話題の特別招待作品は上映回数が1回だけだし、
コンペティション部門は複数回上映するけれど
大半が平日の昼間にやっているから学生や勤め人は行きにくい。
チケットの取り方もかなり面倒くさく、
ふらっと行って楽しめるようになってないのがネック。
抜本的な改革が必要だと感じますね。


閑話休題。
今年の映画祭のオープニングを飾るのは
ディズニーアニメの最新作「ベイマックス」。
ディズニーアニメ史上初、というかハリウッドアニメ初の
日本人の少年が主人公となったことでも話題。
本作では日本語吹き替え版の声優に
菅野美穂や小泉孝太郎などが起用されている。











さて、アニメ映画、特にハリウッドのアニメの吹き替えに有名人が起用されると
「本職の声優を起用するべき」という意見が必ず出てくる。
だが、果たしてそれは正しいのだろうか?
少し検証してみたいと思う。


例えばこんな発言をする人がいる。



 「専業の声優さんを使ったらもっとみんな観に行くはずなのに。
  有名人を起用したら日本ではヒットしないよ」



では、今年大ヒットした「アナと雪の女王」はどうだろう?
あの作品も公開前に神田沙也加や松たか子、ピエール瀧の起用が発表された時、
やはり今まで同様「また有名人か・・・」と嘆く声があった。
というか、正確には話題にもされなかった。
だがふたを開ければ250億円を超える大ヒットを記録した。
一方、2年前に公開された「ハンガーゲーム」という映画。
これは北米だけで4億ドル稼ぎ、世界的にも大ヒットを記録、
そして日本で公開される際には水樹奈々や神谷浩史、釘宮理恵など、
TVアニメで活躍する人気声優を大量に投入したにもかかわらず、
日本での興収は5億円弱と、全世界で日本だけ大コケという結果だった。




 「いや、それは実写映画だし、結構グロい描写もあった作品でしょ?
  質の高いアニメ映画だったらそんなことはないはず」



4年前に公開されたドリームワークスアニメ「ヒックとドラゴン」は、
全米では2億ドルを超え、全世界的にも大ヒットを記録し、
その年のアニメーション界のアカデミー賞と言われるアニー賞で作品賞を受賞し、
本家アカデミー賞の方でも長編アニメ部門にノミネートされるなど評価も高かった。
そして日本公開時にはヒロイン役に「けいおん!」で注目された
若手人気声優の寿美奈子を起用したにもかかわらず、
日本での興行成績はヒットの基準10億円に満たない9億円足らずでした。




 「いや、それ全部外国のアニメでしょ?
  わざわざ海外のアニメ見なくても日本ので十分だし。
  じゃあ、日本のアニメ映画の場合はどうよ?
  スタジオジブリなんか、なんであんなに有名人を起用するの?」



これは、スタジオジブリの声優起用の方針が
一般的なアニメ作品の起用方針と根本的に違うからです。

ちょっと思い出して欲しいんですが、
10年近く前、芸人の友近さんとなだぎ武さんのコンビで人気を博した
「ディラン&キャサリン」ってコントがあった。












これは海外ドラマ「ビバリーヒルズ高校白書」のパロディだったんだけど、
あの番組が日本で放送されてからもう20年近く経っていて、
元ネタなんか知らない観客が大半なのにあのコントはヒットした。
つまりあのコントがヒットした要因は「ドラマの再現度の高さ」ではなく、
「日本の吹き替え俳優の演技は日本語の会話として不自然である」
ということをデフォルメしたことにあるわけです。

ジブリは、というか宮崎・高畑両氏は常々それに異を唱えていました。
例えばアニメ「ワンピース」のルフィ役などで有名なベテラン声優の田中真弓さん。
彼女が宮崎監督の「天空の城ラピュタ」でパズー役として起用された際、
監督から何度も言われたのは「自然にやるように」と。
TVアニメでやるようなオーバーな演技はとにかく控えさせられたと。
一方、高畑監督はTVアニメ「じゃりんこチエ」を監督した際、
原作の舞台となる大阪の下町の雰囲気を出すために
主要キャストの声優に関西の芸人さんを多数起用しました。
しかし、日本のTVアニメの吹き替えは画に声を合わせる
アフターレコーディング、いわゆるアフレコ方式なので、
せっかくの出演者の自然な演技を画の動きという制約の中に押し込めてしまう。
このことを高畑監督は非常に後悔した結果、
それ以降彼の作品は声を先に録るプレスコアリング、
いわゆるプレスコ方式を採用するようになったわけです。

結局、スタジオジブリが求めている「声」というのは
アニメキャラの声ではなく人間の声なのです。




 「でも、やっぱりアニメには声優さんのあの演技の方がしっくりくるもの。
  宣伝目的で有名人を起用して、作品を台無しにしないもの。
  それに有名人を起用したらその人の顔が浮かんで
  作品に集中できないよ」



これも、最近はあながち正解とは言い切れません。
なぜなら声優を起用する理由は単純に「演技力の高さ」や、
「キャラクターとの相性」だけではないからです。
例えば、これはある声優さんが以前ラジオ番組で話していたんですが、
とあるアニメ番組の主人公役の最終選考数人に残っていたのですが
結局その人は役に選ばれず、新人の声優さんが選ばれたというのです。
後日その理由をその番組のスタッフから聞いたところ

 「今回はあなたも含めた、すでにいくつか作品を経験してる人ではなく、
  選ばれた人にデビューのきっかけにしてもらおうということになった」

と言われたそうです。

こうした「新人の育成」という比較的健全な理由ならまだしも、
最近はもっとシビアな、営業的な事情、例えばイベントでの集客力で選ばれたり、
下手をすれば個人的に仲の悪い声優同士は共演させない、
早い話が声優業界にも「共演NG」があるという
身もふたもない理由が存在する、ということも伝わってきています。

しかも、ちょっと考えてみてください。
現在、声優さんが写真付きで登場する専門誌は多数存在し、
最近はファッション雑誌のjunonが
いわゆるイケメン声優を特集した別冊を刊行したり、
作品内で組まれたアイドル声優のユニットがライブをしたり、
ゲームのTVCMに当たり前のように出演したりと、
20年前と比べて、声優さんはもう「顔を出す」時代です。
そんな美人声優、イケメン声優のファンの人たちは
その声優さんが出演してるアニメ作品を見ながら
その人の顔を思い浮かべないのでしょうか?




確かにハリウッド映画で有名人を声優に起用しだした頃は、
ただ話題性だけ、宣伝目的だけで起用されていた例もあります。
これの最たる例が劇場版「ザ・シンプソンズ」。
全米で大ヒットしたブラックな笑いが特徴のTVアニメで
日本でもWOWOWで放送されて絶大な人気を博したにもかかわらず、
劇場版が日本で公開される際、本国の映画会社の意向で
和田アキ子や所ジョージ、ロンブーの田村淳やベッキーなど、
主要キャストが全部有名人に差し替えられるという事件が起きた。
その結果、TV版のファンによる抗議活動が起こり、
結局日本では大コケしてしまった、という例がありました。
しかしこれがある意味反面教師となって、
最近はディズニーやピクサーの作品を中心に
有名人を起用したとしてもなるべくキャラクターに合った声、
それ相応の演技力のある人を選ぶようになりました。
だから、最近のハリウッドアニメの吹き替えは
たとえ有名人を起用していても侮れないのです。






最後にもうひとつエピソードを。
タレントの伊集院光さんがパーソナリティを務めるラジオに
亡くなった立川談志師匠がゲストとして出演した時のこと。
伊集院さんは元々「三遊亭楽大」という芸名で三遊亭楽太郎、
現在の六代目三遊亭円楽師匠の元で落語家として活動していた過去があり、
談志師匠の若い頃の高座を聴いてあまりの完成度の高さに落語家を辞めた、
という過去があったそうです。で、そのことを談志師匠に話した際、
師匠は伊集院さんに一言、こう言ったそうです。


 「いい言い訳になったじゃねぇか」


「俺の芸がわかってるな」と褒められると思っていた伊集院さんは
予想外の反応にとまどっていると師匠はこう続けたそうです。


 「お前はな、その時もう落語を辞めたかったんだよ。
  でもただ辞めるのはカッコ悪いからなんか理由が欲しかった。
  そこにたまたま俺の落語があっただけだ」



何が言いたいかと言うと、
「本職の声優を起用しないから観ない」という発言の裏には、

 「『ただ興味がないから観ない』というとなんかカッコ悪いから、
  『有名人が起用されてるから』ともっともらしい理由を付ければ
  『ただ観ない』という本音を隠すことも出来るだけでなく、
  『俺はアニメの質にこだわりがあるんだぜ』とカッコつけることも出来る」

という自意識が透けて見えるように感じます。
もし本当にその作品に興味があったとしたら
海外のアニメなら字幕版で観ることだって出来るわけですから。



同じことは

 「最近のテレビはつまらない」
 「最近のヒットチャートは良い音楽がない」
 「最近のゲームはパッとしないね」

などという文言にも当てはまりますね。
自分で面白いものを探す手間、センスを磨く手間を省いておいて、
その責任を作り手に押し付けている人が増えたように思います。


娯楽はどのジャンルでも日々進化しています。
そして面白いもんはそこいらにごろごろ転がってます。
「これは自分に合わないから」というのは個人の感想であり、
これについてどうこう言うつもりは毛頭ありません。
ただ、特定のジャンルに対して「これはオワコン」などと言う人は

 「私にはこのジャンルの面白さがわかりません。
  このジャンルの良さを見つけるセンスもなく、
  またその良さを見極める手間を惜しんでます。」

と宣言してるのに等しく、
決して褒められたことではないことだけは
胆に銘じるべきだと思います。