どうも、はちごろうです。



では、つづきを。



残念ながら本作の脚本は3人がかりで1年半もかけて書かれたそうですが、
正直かなり出来が良くないんですよ。

例えば、冒頭の杏奈の心の叫びのシーン。
このシーン自体は非常にいいと思うんです。
ただ、周囲に心を閉ざしている少女の胸の内を
作品の冒頭で語らせてしまうのはいかがなものか?
そして彼女が内面を観客に吐露した直後、
杏奈の保護者である頼子は「彼女のことがわからない」と嘆くんですね。
これ、他の作品でも結構ありがちな失敗なんですけど、
映画の中の登場人物が観客よりも後に主人公の素性や心情を知ると、
結果的に説明が重複してしまって、まどろっこしい印象を受けるんですね。
しかも杏奈はこのあと釧路に行き、あることがあって感情を爆発させ、
それで自己嫌悪に陥るんですが、冒頭ですでにやってることなので
「またかよ・・・」って感じになってしまう。
とにかく本作は主人公に関して冒頭から説明過多で、
多くのジブリの登場人物が持つ「神秘性」とでもいうんでしょうか、
「このキャラはどんな人物で、どんな過去を持ってるんだろう?」という
キャラクターへの好奇心が観ていてほとんど呼び起こされないんですよ。

次に、杏奈が休みの間に身を寄せることになった大岩家。
この夫婦はいかにも地方在住といったようなおおらかな存在で、
それ自体は観ていて好感の持てるキャラなんですが、
とにかくこの二人がおおらか過ぎるというか、
杏奈のすることに対してひとつも怒らないんですよ。
杏奈はマーニーと出会い、一緒に楽しい時間を過ごすと、
決まって夜遅くに道端で倒れているのを発見されるんですね。
いくら大岩の夫婦がおおらかといったって
どんなことが起きても怒らないどころか、理由も訊かないのは
いくらなんでも保護者としてどうなんだ?というのはあります。

そして後半になると杏奈が心を閉ざした理由が語られるんですが、
それが頼子が自分を養うことで自治体から補助金をもらっていたという、
それまでの流れからするとかなり唐突に、
いきなりリアルな社会問題が差し挟まれたりするんですね。
確かにそれまで頼子は愛情から自分を育ててくれていたと信じてただけに
「やっぱり金かよ!」ってなってしまう潔癖な感情ならわからなくもないですが、
「隣のうちの子はもらってないのに何で私だけ?両親が死んだから?」という
なんだか微妙に的外れなわだかまりなんですよ。
そもそもその補助金は公共の福祉を目的とした国民の立派な権利なのに、
それをむやみに嫌悪するのはどうよ?っていうのはありました。

さらに作品も後半に入ると、本作の最大の謎である
「マーニーとは何者なのか?」という核心部分に迫っていくのですが、
マーニーは杏奈が一人でいるときしか現れないので
かなり早い段階で彼女がこの世のものではないことはわかるわけです。
ところが後半、屋敷に住んでいたころのマーニーを知る人物が登場して、
マーニーがどんな人生を送ったのか、その人があらかた説明してしまうんですよ。
で、さらにクライマックスでマーニーと杏奈に
浅からぬ関係があったことがわかるんですが、
どうして杏奈はそのことを覚えていなかったのか?
マーニーという名前で気が付かなかったのか?と思ってしまいました。



ちょっと前に「桐島、部活やめるってよ」って作品がありましたが、
思春期の少年少女が他者との関係性に思い悩む作品がここ最近多数制作され、
思春期を今まさに過ごしてる若い世代だけでなく、
むしろ思春期を過ごした大人たちの共感を集めてますが、
実はこうした思春期特有の心の揺れを
全く経験せずに育っちゃった人種というのもいて(私のことですが)、
そういう人にはちっとも共感できない作品だったりしますが、
本作もまた、そうした思春期を知らない、覚えていない私みたいな人には
非常に不向きな作品だったと思います。



結局、現在の米林さんに、ひいては現在のジブリに最も欠けているものは
「観客に語りたいこと」と「観客に語りたい意欲」なんだと思う。
本作は「宮崎・高畑がいなくてもいい作品は作れる」という
ある種の対抗意識で作られたものであって、
決して観客の方だけを意識して作られたものではないと感じる。
そして本作の原作は鈴木さんに与えられたものであって、
麻呂さんが自分で見つけてきたものではないわけです。
幸い主人公たちと同じ経験をしてきた女性の評価は総じて高いので
ある程度のヒットはするとは思うのですが、
今度こそ麻呂さん本人が、宮崎・高畑・鈴木世代の力を借りずに
自分でやりたい作品を一から見つけ出さなければ
そのときは本当にジブリは解散してしまうと思います。



[2014年7月20日 TOHOシネマズ 日本橋 7番スクリーン]





借りぐらしのアリエッティ [Blu-ray]/ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

¥7,344
Amazon.co.jp





風立ちぬ [Blu-ray]/ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社

¥7,344
Amazon.co.jp