どうも、はちごろうです。


なんか昨日は海外で大きなイベントがあったようですが、
日本は全く関係なく日々が過ぎて行った感じですね。
昨日も朝から外出していましたが町は静かでしたよ。
さて、映画の話。




「グランド・ブダペスト・ホテル」











「ダージリン急行」「ムーンライズ・キングダム」の新鋭
ウェス・アンダーソン監督の最新作。
レイフ・ファインズ、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、
エドワード・ノートン、ハーベイ・カイテル、ビル・マーレイ、
ティルダ・スウィントン、シアーシャ・ローナンなど
今回も豪華キャストが集結。



あらすじ


1932年。東ヨーロッパのズブロフカ共和国。
この国を代表するホテル、グランド・ブダペスト・ホテルには
グスタヴ・Hという凄腕のコンシェルジュがいて、
顧客は彼のサービスを目当てに来ているといっても過言ではなかった。
そんなホテルの客の一人で、大富豪のマダムDが何者かに殺害される。
グスタヴは葬儀に参加するため新入りのインド人ベルボーイのゼロと共に
マダムDの住まいであるルッツ城に向かった。
彼が到着した時、場内では親類縁者が集まり、
弁護士立会いの下に遺言状が公開されようとしていた。
ところが、彼女が最後に遺した遺言状には、
「秘蔵の絵画「少年と林檎」をグスタヴに譲る」と書かれていた。
これに憤慨したマダムDの息子ドミトリーが、グスタヴを母親殺害容疑で告発。
彼は軍警察のヘンケルス大尉に逮捕されてしまうのだった




新鋭ウェス・アンダーソンの新境地



近年、一部の映画ファンだけでなく目ざといおしゃれさんに注目の
ウェス・アンダーソン監督の最新作なんですが、
昨年公開された「ムーンライズ・キングダム」を紹介した際に
彼の作品の特徴を少し説明したと思います。
もう一度軽くおさらいしておきますと、基本コンセプトは「人形の家」。
お人形さん遊びをする際に使うジオラマを真横から見たような感じで、
基本的にカメラの位置は真横か真上、もしくは真下で、
斜め上や斜め下からのアングルというものはほとんど見当たらない。
セットも、おしゃれなんだけど非現実的な色使いのものばかり。
そして扱う題材は「インテリ一家の崩壊と再生」。
天才の子供に生まれた天才が家族関係に悩みながら
自分の人生を見つめ直したり、存在意義を見つけたり、といった内容。
とまぁ、結局はインテリ好みの偏差値高めの作品ですわ。
しかし今回はそんないつもの題材から一歩離れて
少し毛色の違ったテーマを語ろうとしています。
(もちろん、センスの良さはいつも通りですが)




シュテファン・ツヴァイクって誰だ?



まず、その前にある一人の作家について少し説明を。
これはパンフレットにも少し書いてあるし、
映画評論家の町山智浩さんもラジオで解説されていたんですが、
本作は最後に「シュテファン・ツヴァイクに捧げる」という文章が出てくる。
シュテファン・ツヴァイクというのは1930年代に活躍した
オーストリア出身のユダヤ人作家。
彼の作品は当時オーストリア国内はもちろん世界中で人気を博し、
あの里中満智子の「ベルサイユのばら」にも影響を与えたほどだという。
だがそんなツヴァイクの順風満帆な人生をあっさりと崩壊させたのが
ナチスドイツによるオーストリア侵攻、およびドイツとの併合である。
ユダヤ人だった彼の作品は禁書扱いとなり、その後迫害を逃れてブラジルに移住。
そこでツヴァイクは「昨日の世界」という作品を執筆し、自ら命を絶った。
「我々が夢見た世界は、もう昨日の世界である」
当時国際的な知名度を誇った彼は世界中の知識人と親交があり、
いずれはこうしたネットワークを駆使して世界平和を目指そうとしていた。
国や民族による差別のない、平和で文化的な世の中を作ろうと。
だがその理想はヒトラーのようなファシストによって壊され、
ツヴァイクの夢見た世界は「過ぎ去った過去」となってしまったわけです。




「悲劇を語り継ぐ」という使命



本作は過去作同様、表面的にはおしゃれで可愛い世界なんですが、
まさにこのツヴァイクの夢を打ち砕いた
ファシズムに対する怒りと警告が込められています。
本作の格となる物語はグスタヴの冤罪事件なのですが、
この物語は、他国に侵攻されて消滅した
旧ズブロフカ共和国の国民的作家だった男が、
若いころにこのホテルに滞在した際に出会った、
いまや老人となったゼロから聞いた話、という設定になっています。
若きゼロがグスタヴのもとで働くようになった頃には
すでにファシズムの陰が近づいていて、
二人が殺害されたマダムDの屋敷に向かう際、
車内検札に現れた軍警察にゼロが連行されそうになる。
その際、二人の窮地を救ったのは担当官のヘンケルス大尉が
彼の親の代からグスタフと親交があったからである。
だが、事件が一件落着し、再び彼らが列車内で検札を受けた際、
彼らの前に現れたのはズブロフカに侵攻した
他国のファシストたちだったのです。
その後、グスタヴ達がどうなったのかは語られませんが、
この時の出来事は老いたゼロの口から作家に語り継がれ、
そしてその作家が書いた本を持った少女が
亡くなった彼の銅像を訪ねるシーンに繋がるのです。
つまり、悲劇はそれが再び誰かに降りかからないため
後の世代に語り継がねばならない。
そのためにも表現者という存在は社会にとって必要だし、
もちろん表現者自身も責任を持って語らねばならない、という
表現者としての覚悟を感じさせる一本となっていました。


もちろん、そういう裏テーマに気が付かなくても
純粋におしゃれで可笑しい世界を楽しんでも全然問題ないです。
豪華なキャストの競演と、グスタヴとゼロとの間に生まれた信頼。
それはつまりアンダーソン監督お得意のテーマである
「家族関係の構築」も含まれています。
「アナ雪」ももう食傷気味、みたいな大人の観客のための
上質のコメディでした。是非是非!

(昨日、朝9時半からの回を観てきたんですが、
 客席は6割ぐらい埋まってました。
 やっぱり、例のイベント盛り上がってないんですよw)



[2014年6月15日 TOHOシネマズ シャンテ 1番スクリーン]





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