どうも、はちごろうです。

7月に入り夏映画も本格的に出揃ってきました。
とはいうものの、先週末はいろいろ事情があり見たのはこの1本。
そのことについては追々書いていきたいと思います。
さて、映画の話。

「鋼の錬金術師 嘆きの丘<ミロス>の聖なる星」

荒川弘原作の大人気コミックの劇場版オリジナル作品。
脚本を小説「ホワイトアウト」の新保裕一が担当。
アメストリスの首都セントラルの中央刑務所で脱獄事件が発生。
国家錬金術師のエドワードとアルフォンスのエルリック兄弟が
脱獄犯メルビン・ボイジャーの姿を追うが、
ボイジャーは二人が見たこともない錬成陣を使いその場を逃走する。
その後の捜査の結果、メルビンは何者かがなり済ました別人であること、
そして現場検証で彼がある新聞記事を目にして脱獄を企てたことがわかる。
その新聞記事とはアメストリスの隣国クレタとの国境沿いの町、
テーブルシティの反政府ゲリラ「黒コウモリ」の一員、
ジュリア・クライトンが拘束されたことを報じたものだった。
事件の真相を追うため列車でテーブルシティに向かったエルリック兄弟は、
車中でメルビン、アメストリスの警備兵、黒コウモリ、
そして謎のキメラ・人狼とのバトルに巻き込まれていく。



ハガレンファンお待ちかねの1本


海外でも大人気のTVアニメの劇場版ということなんですが、
作品は良くも悪くも「原作ファン・TVアニメのファン」向けで、
やっぱり作品に関するある程度の知識がないとわかりません。

・「錬金術」という魔術的な力が存在する世界
・優れた錬金術師は国家錬金術師として立場が保証されている
・主人公のエルリック兄弟は死んだ母親を生き返らせるため
 禁忌を犯して人体錬成を試みるも失敗。
 兄のエドワードは片足と片腕を、弟のアルフォンスは全ての肉体を失う。
・二人は失った身体を取り戻すため国家錬金術師となり、
 錬成の力を増幅する能力をもつ「賢者の石」を探す旅に出る。
・だが「賢者の石」は人間の命を材料としていた。

最低限これだけの知識が無いとやはり理解できない作りになってます。


原作11・5巻


さて、劇場に行くと窓口で入場者特典の薄いコミック本がもらえます。
このコミック本には「鋼の錬金術師 第11・5巻」と書かれていて、
つまり今回の劇場版は原作コミック11巻の第45話の
サイドストーリーという設定がこのコミック本でわかることになっています。
「上映前に読んでおけば、より楽しめます」ってことなんですが、
考えてみればDVDなどにはこのコミック本は付いてこないので、
やはり製作者側には「観客が作品の世界をあらかじめ知っている」ことを
暗に要求する甘えがあることは確かである。


この映画自体の「等価交換」とは?


では、ファンにとってはこの作品は楽しめるのか?

本来、この「鋼の錬金術師」という作品には
「等価交換」という首尾一貫したテーマがある。
「何かを得るためには、同等の何かを失う」
主人公を含めて登場人物たちは何を得て、何を失うのか?
そして何かと引き換えにして得ようとしているものに
その何かを失うだけの価値があるのか?という問題を突きつけられる。
具体的にいえば、主人公のエルリック兄弟は
失った身体を取り戻すために賢者の石を探す旅に出るのだが、
その過程でその石は人の命を材料に作られることを知る。
自分たちの肉体を取り戻すためには他人の命を犠牲にする必要がある。
このことに彼らは苦悩し、他の解決策を見つけるため旅を続けるわけです。

で、今回の作品ではテーブルシティという町を舞台に、
本来「ミロス」というテーブルシティの先住民族で
現在は反政府ゲリラの「黒コウモリ」とアメストリス兵の対立、
そしてその解決のために「ミロス」の民が探し求める
「聖なる星」(実は賢者の石の別称)の争奪戦が繰り広げられる。
そしてその戦いの中で多くの命が犠牲になっていくわけだから、
「犠牲を伴った勝利」のために登場人物が奔走する本作は
一応作品のテーマはきちんと押さえていたと思う。
そして主人公たちがテーブルシティの中で、
そして疾走する列車の上で繰り広げるバトルはスピード感もあり、
またエドワードたちが錬成した造形物のもつ「遊び感覚」というか、
例えば敵を攻撃するときに錬成した石柱が手の形をしていたり、
鉄の壁を突破するときに作った扉に顔が書いてあったりと、
つまり錬成されたものがどこか子供っぽいところなんかも
純粋にアニメーションとしての快感は感じさせてくれます。


確かに原作ファン・TVアニメのファンを楽しませることは出来たと思うけど、
一つの作品として考えたら圧倒的に説明不足であることは確かだし、
固定ファンを失望させないために新規ファンを切り捨てた感はありますね。
「固定客の満足を得るために、新規ファンの開拓という選択肢を失った」
そういった後ろ向きな「等価交換」が行われた、と。

まぁ、オタク向けアニメの劇場版ではよくあることですが。