どうも、はちごろうです。

毎日暑いですねぇ。ホント、言いたくないけど暑い!
というわけで、ってことでもないんですが、
今回は冬山を舞台にした映画の話。

「デンデラ」

浅丘ルリ子、草笛光子、倍賞美津子、山本陽子など、
日本映画界を築いてきた名女優たちが身体を張って熱演したドラマ。
監督は故・今村昌平監督の息子、天願大介。
昔々、この国には口減らしのために老人を山に捨てる風習があった。
貧しい山村に住む斉藤カユは70歳になったことで
村のしきたりにより雪山に捨てられることになった。
息子の手によって捨て場であるお参り場に置き去りにされ、
カユは極楽浄土を夢見てその場で死を待った。
だが、カユは火の焚かれた建物の中で再び意識を取り戻した。
外へ出てみると、かつてカユより先に捨てられた村の老人たち、
しかも老女ばかりが周囲をうろついていた。
そこはかつて村で暮らし、掟により捨てられた老女・三ツ屋メイにより作られた
「デンデラ」と呼ばれる老女だけの共同体だった。
メイはこの30年、自分を捨てた村の男たちへ復讐するため、
同じく捨てられた老人たちの中から男は見捨て、
女だけを助けて独自の村を作り、老女たちを鍛え上げていた。
カユが来たことでデンデラに住む老女は50人になった。
メイは機が熟したと考え、デンデラに住む老女たちに
次の満月の夜に村を襲撃すると宣言する。
しかし、老女たちの中には復讐に反対する者もいた。
椎名マサリは「復讐は何も生み出さない」という考えの持ち主で、
復讐を諦めデンデラで静かに暮らすことを主張していた。
そしてまた、すでに生きる意欲を失っていたカユも
メイの意見に賛同できずにいた。
だが身体が不自由だったために早く捨てられた親友・黒井クラが
死を怖がり生き続けていることを知り、カユの考えは揺らぐのだった。

この作品を語る上で当然知っていなければいけないのが
今村昌平監督の名作映画「楢山節考」。
この物語のきっかけとなる姥捨て山伝説を描いて
カンヌ映画祭でパルムドールを獲った。
で、本作はその捨てられた老女たちが「もし生きていたら?」という
とんでもない仮説から生まれている。まず、この発想は面白いと思った。
そして、もし生き延びて共同体を作っていたらどんな生活をしているか?
こうして作られたデンデラという共同体の世界観は、
ちょっとしたファンタジー映画さながらに独創的だった。
さらに捨てられた村人たちを演じる往年の女優たちが、
巨大なスクリーンに老いた顔をさらけ出すだけでなく、
女であることを捨てるほどの熱演は一見の価値があると思う。
(登場人物の一人称は基本的に「オレ」だったしね)

ただ、斬新な世界観や俳優陣の熱演に対して、
残念ながら脚本の出来がお粗末だった。
まず、このデンデラという共同体が出来るきっかけとなる
「姥捨て」の風習の説明がほとんどなされていない。
いかに「楢山節考」という作品が日本映画を代表する作品とはいえ、
公開されてからそろそろ30年は経つわけだから
字幕などでの最低限の説明は必要だったと思う。
ここは監督・天願大介が「今村昌平の息子」だったことが
ちょっと裏目に出てしまったような気がする。

次に、デンデラの住民のキャラクター設定。
主人公のカユがデンデラにやってきたとき、
村には二人の「リーダー格」がいた。
一人はこのデンデラの開祖である三ツ屋メイ。
彼女は自分を捨てた村への復讐に執着し、
それが彼女の生きる原動力となっている。
片や、彼女と正反対の考えを持つ椎名マサリは、
復讐心を捨てて村の存続を願っていた。
「復讐」か?「赦し」か?という二つの考え方の間で
カユは揺れ動いていくことになるんだけど、
僕はこれ、二人の考え方が逆なんじゃないかと思ったんですよ。
復讐を誓い、生き延びて仲間を集め、村を作るうち復讐心が薄れ、
それと反比例するように村への愛着が出て、生きること自体が目的化する。
一方、あとからやってきた者はまだ村への怒りがあり、
復讐する気が衰えていない。
僕はメイとマサリの立場からすれば
互いの考え方は逆の方が自然な気がしました。

そして村に現れるある「生き物」。
実は村への襲撃を目前にしてデンデラはある生き物の襲撃を受けるんだけど、
金銭的な余裕が無かったからかもしれないんだけど
この生き物の動きがどうしても作りものっぽい。
おそらく着ぐるみだからなんだろうけど、CGだとしたらものすごいお粗末。
それまで生身の俳優たちが圧倒的な存在感で老いを体現してきただけに、
余計にその生き物のちゃっちい感じが残念だった。
そしてまた物語の問題点に戻るんだけど、
物語の中でこの「生き物」がただの「登場人物の行動を阻む存在」から
次第に観念的な意味での「死」という意味合いを持ってくるんですよ。
その生き物はデンデラの老女たちに「死」をもたらす。
そしてその「死」がもたらされるのは決してデンデラの民だけではない。
この「生き物」の持つ意味合いが変わっていったことで、
結果的に結末がかなり難解なものになってしまったんですよ。
ラスト10分でいきなり難易度が上がっていくので
正直観終わって頭の中は「?」しかなかったです。

でもまぁ、脚本は確かに穴だらけではあったし、
製作費の問題から表現しきれなかったところもあるんですが、
この世界観と女優陣の熱演は観て損はないと思います。
雪山が舞台なので見た目も涼しいですしね。