どうも、はちごろうです。

連休中、すっかり風邪をひいてしまいました。
鼻と喉の調子が悪くてかすれ声なんですが、
僕の場合、風邪を引くと無性に気が滅入ったり
意味もなく不安になったりするので
このくらいわかりやすい症状が出てくれると逆に安心します。
さて、映画の話。

「キッズ・オールライト」

本年のアカデミー賞4部門ノミネートのホームドラマ。
女性医師のニックは患者だった女性ジュールズと結婚。
精子バンクから精子の提供を受けて1男1女を授かり、
家族4人で幸せに暮らしていた。
ある日、この秋から大学に進学する長女のジョニに
中学生の弟レイザーが相談を持ちかけた。
18歳になったら子供自身の意思で
精子提供者の情報を知ることが出来るという契約に基づき、
自分たちの遺伝子上の父親が誰なのかを
精子バンクで教えてもらおうというのだ。
ジョニは「ママたちには内緒にすること」を条件に精子バンクに連絡。
二人は人気レストランを経営する「父親」ポールと出会う。
気さくな雰囲気のポールに二人は好印象を持つが、
レイザーはニックたちとのちょっとした誤解から
ポールとひそかに会っていることを二人にバラしてしまう。
ニックとジュールズは相談の末、ポールを家に招待することに。
ポールの持ち前の明るさにジュールズも彼を気にいるが、
ニックは家族を乗っ取られるような不安感にかられるのだった。

人は誰かを恋し、互いに愛し合って結婚することで、「夫」、そして「妻」となり、
そこから子供を授かることで「父」、そして「母」となる。
一般的には「父」とは男がなるもので、「母」とは女がなるものだが、
中には子供を授かっても本当の意味で「父」、「母」になれない人もいれば、
女性なのに「父」になれる素質のある人、またはその逆で、
男性なのに「母」になれる素質のある人というのもごくまれに存在する。
つまり、家族という共同体を機能させるためには
「父性」を有する人物、「母性」を有する人物が必要でなのであり、
「父性」や「母性」を保持する条件として「性別」は問題ではないのである。
平たく言えば、「父親キャラ」「母親キャラ」の役割分担がしっかりしていれば
ゲイカップルでも子育てに支障はきたさないわけである。

では、この作品に出てくる家族はどうかというと、
表面的にはレズビアンカップルが子育てをするということで
まるで「父親不在で、母二人」というように見えるのだが、
実際のところはニックは「父親」としての適性、
ジュールズは「母親」としての適性を有しているため、
子育ての環境をしては実は非常に健全なのである。

ところがこの家族として十分に機能している共同体に
精子提供者、つまり「遺伝学上の父親」ポールが現れることで、
順調だった家族に不協和音が生じ始める。
確かにポールは遺伝学上の「父親」なんだけれども、
父性、つまり父親としての「適正」を有しているとは限らないし、
仮に彼が父親としての「適正」を有していた場合、
今度は家族の中で「父親キャラ」が二人いることになるわけだから、
家族の中での自分の存在を脅かされることになるニックの不安は
観客が思うよりも計り知れないものなのである。
(でまぁ、その予想は的中していくわけなんだけれども)
結局この作品はレズビアンカップルの結婚生活を描いているようで、
実は「父親」が新たに現れた「父親候補」から
家族の中での主権を守るために苦悩する姿を描いた作品だったと思う。

「レズビアンカップルの夫婦」という物珍しさから
多くの観客が期待するような「笑える騒動」はほぼ起こらない。
例えばレイザーが同級生と毎日のように遊んでいることから、
息子に同性愛の傾向があるのではないかと勘違いするくだりがあるのだが、
彼女たちは「私たちの世界へようこそ!」と歓迎するようなことはせず、
他の多くの家族のように「息子がゲイだったらどうしよう?」と悩むのである。
おそらく多くのゲイカップルはこの作品の二人のように
ストレートと変わらない子育てをするんだと思うし、
だからこそこの作品が「ホームドラマ」としての普遍性を
ゲイ以外の観客にも感じさせることが出来たんだと思う。
そういった意味でも非常によく出来た作品だったと思います。