どうも、はちごろうです。

東京の桜はすっかり満開で、おそらく週末が見ごろ。
ただ、明日は雨が降るとか。少し残念です。
散り急ぐことはない。今年もきちんと愛でるからさ。
さて、映画の話。

「ザ・ファイター」

本年度アカデミー賞2部門受賞のボクシング映画。
実在のボクサー、ミッキー・ウォードとその家族の物語。
マサチューセッツ州の小さな町、ローウェル。
その町で暮らすディッキー・エクランドは町の英雄だった。
彼はプロボクサー時代、伝説のボクサー、シュガー・レイと対戦し、
負けはしたものの一度ダウンを奪ったことがあった。
現在は腹違いの弟ミッキー・ウォードのトレーナーをしていたが、
引退後、薬物に溺れた彼はトレーニングに現れないことも多く、
また母親アリスとともに不利な条件の試合を無理やり強行させるなど、
マネージメントの才能もからっきしだった。
そんなある日、ミッキーは町の酒場でバーテンをしている
シャーリーン・フレミングという女性と知り合う。
彼女は陸上の特待生として大学に進学したが、
練習もせず遊び放題でキャリアを潰した過去を持っていた。
彼女はミッキーに母親と兄から離れるべきだと忠告するが、
彼はアリスに「家族の言うことが聞けないのか!」と反論され、
新しい試合に出るよう命令される。だが彼らには会場に行く金もなかった。
そこでディッキーは金を工面するため犯罪に手を染める。
あえなく彼は警察に捕まり、それを止めに入ったミッキーも拳を負傷してしまう。
ディッキーと物理的に距離を置くことになったミッキーは、
シャーリーン、そして父親の説得により
アリスからも離れて再スタートを決意するのだった。

一応メインは、どん底の生活をしていたボクサーが再起する物語なんだけど、
実は主人公の兄が再起する話でもあり、またそっちの話の方が興味深い。
この作品を見ると、いわゆる「ダメ人間」の本質というものがよくわかる。
例えば酒を浴びるほど飲んだり、博打にうつつを抜かしたりという
いわゆる自堕落な生活を送る人は「ダメ人間」とは言わない。
本当の「ダメ人間」とはそうした自分が取った行動によって、
他人に迷惑をかける、また他人に迷惑をかけても
そのことに気がつかない人間のことなのである。
「ダメ人間」というものをそういった定義でとらえると、
まさにこの作品に出てくるディッキー、そしてアリスは、
ミッキーの才能を潰す「ダメ人間」の典型なのである。

ディッキーは確かにプロボクサーとしての才能にはあふれ、
またトレーナーとしての才能もある。
だが才能と、自身の過去の栄光があるせいで、
現時点でも自分がミッキーより「優れている」と思いこみ、
「自分に従うことが弟のため」と考えてしまう。
同じく母親のアリスも息子の将来を思うあまり
「息子の身を案じているのは私だけ」と思い込み、
「私に従うことが息子のため」と考えてしまう。
だが実際は逆で、ミッキーを従わせることによって、
自分たちが優秀であり、価値のある人間だと思いたい。
自分の価値のなさを認めたくないがために
ミッキーに依存しているだけなのである。
そしてそんな家族をミッキーも血の繋がり故に捨てきれない。
この、崩壊した家族によくある「共依存」の関係が
実にリアルに描かれていく。

で、その「ダメ人間」に絶妙な説得力を与えているのが、
ディッキー役のクリスチャン・ベールと、アリス役のメリッサ・レオ。
この二人はもう、本当にうまい。
観ていて本当に腹が立つほどダメ人間なんだけど、
それでも捨てきれない魅力を持った人物を見事に演じきってた。
この演技での二人のオスカー受賞は納得。
特にクリスチャン・ベールの演技がすごかった。
特に後半、刑務所から出所してミッキーと再会したあと、
彼がミッキーにとって重荷になっていることを悟り、
やっと自ら更生しようと決意するくだりは最高だった。
もちろん彼だけでなく主演のマーク・ウォールバーグも、
シャーリーン役のエイミー・アダムスも安定してうまい。
主演スターの演技、そして役作りはハンパじゃなかった。

そろそろ映画館で何か観たいなと思う人もいるだろうけど、
まさにうってつけの一本。この春イチオシですね。