どうも、おささです。

先日アカデミー賞の前哨戦ともいわれる
ゴールデングローブ賞が発表になりました。
あとは2月末のアカデミー賞だけとなりましたが、
今回取り上げるのは今年の賞レースの大本命。
ゴールデングローブでも4冠を獲得したこの作品。

「ソーシャル・ネットワーク」

本年度アカデミー賞最有力と目される
デヴィッド・フィンチャー監督の最新作。
世界最大のSNS「Facebook」を創設した
マーク・ザッカーバーグの物語。
2003年10月、ハーバード大に通うマーク・ザッカーバーグは
交際相手のエリカとささいな口論の末に振られてしまう。
寮に帰った彼は振られた恨みを自身のブログに書き込むが、
酔った勢いで一つの計画を思いつく。
彼は早速大学のサーバーに不正アクセス。
大学の学生寮の女子学生の写真を全員分集め、
「誰が一番かわいいか」を閲覧者に競わせるサイト
「facemash」を立ち上げる。
深夜に開設したにもかかわらずサイトは爆発的な人気に。
明け方4時に大学のサーバーがパンクするまでに
2万2千ものアクセス数を記録する。
この事件をきっかけにマークは大学から保護処分を受け
女生徒達の目の敵にされるが、
翌月、彼の才能に目を付けた上級生が現れる。
学内でも名門のファイナルクラブ「ポーセリアン」のメンバーで、
ボート部に所属する4年生のウィンクルボス兄弟は、
自身が計画している学内の学生たちを対象にした
インターネット上の出会い系サイト
「ハーバードコネクション」の立ち上げを計画していて、
そのプログラマーとしてマークに白羽の矢を立てたのだ。
相談を持ちかけられたマークは計画の参加に同意するが、
その後数カ月にわたって彼らはマークとの連絡がとれなくなり、
翌年の2月、突然「the facebook」というサイトが立ち上がる。
そのサイトはウィンクルボス兄弟の企画した内容と酷似しており、
HPには創業者としてマークの顔写真まで載せられていた。
マークにしてやられた彼らはサイトの停止警告を出すだけでなく
学長にマークを退学処分にするよう訴えるが相手にされず、
ついに二人は彼を著作権侵害で刑事告訴する。
一方、「Facebook」がその規模を他大学へと拡大する一方、
マークと共同経営者兼CFOエドゥアルド・サベリンとの間に
運営に対する考え方で亀裂が生じ始める。
会員数が15万人に達したのを受けて
早く収益を上げようとするエドゥアルドに対して、
マークはサイトに広告を載せることに否定的で、
せっかくスポンサー候補と会合を開いても
彼の不遜な態度によって契約がまとまらなくなる。
そんなある日、二人はショーン・パーカーという男と会う。
19歳で音楽交換ソフト「ナプスター」を立ち上げるが、
二つの会社の経営を振り回しただけでなく
麻薬使用のうわさもある信用ならない男だった。
エドゥアルドは彼と手を組むことに慎重だったが、
彼の考えにすっかり感化されたマークは
エドゥアルドに無断でカリフォルニアで家を借り、
彼がNYで地道にスポンサー探しをしている間に
ショーンを「Facebook」の経営に参加させてしまう。
エドゥアルドは怒りのあまり会社の口座を一時凍結。
この出来事で二人の中に決定的な亀裂が生じるのだった。

感想に行く前にあらすじの中の用語をいくつか解説。
まず「ファイナルクラブ」というのは
アメリカの大学にある社交クラブである。
日本のクラブ活動とはまた違ったもので、
入会には厳しい審査があり非常に排他的である。
そのかわり会員はそこで培った人脈を利用して
さまざまな分野で有利に活躍することが約束される。
つまり、大学生活においてファイナルクラブに入ることは、
その後の将来を約束されることに等しい。
次に「CFO」というのは「最高財務責任者」のこと、
日本の会社組織に照らし合わせれば
「役員兼財務担当者」といったところである。
つまり速い話がエドゥアルドの役どころは
「Facebook」の「金庫番」といったところである。

さて、映画の冒頭、主人公のマークと恋人のエリカが、
バーで酒を飲みながら会話をしている。
実はそのシーンに主人公のマークという男の、
そしてこの作品の全てが表現されている。
マークは恋人のエリカに早口でまくしたてながら
自分の考えを思いつくまま喋っていく。
だが途中でふいにエリカの口からついて出た言葉から
別の話題を思いついたマークは思いつくままに話題を変える。
そうして複数の異なる話題を同時進行で語りつつ、
接点を見つけてはめまぐるしく話題を変えていく。
混乱した彼女は「何を言っているの?」と聴くしかなくなり、
ついには彼についていけずに席を立ってしまう。

頭の回転の速さが災いして彼女に振られたように、
マークはまさに自身の才能の豊富さゆえに孤立していく。
彼はファイナルクラブに入るために、
何とかして周囲をあっと驚かせることをしようと考えていた。
その結果しでかしたのが「facemash」である。
結局これは女子生徒の反感を買い裏目に出るわけだが、
これをきっかけに彼はハーバード最高峰のファイナルクラブ
「ポーセリアン」のメンバーから誘いを受ける。
だがマークはウィンクルボス兄弟を出し抜き
エドゥアルドと元に「Facebook」を立ち上げるわけだが、
彼はショーンと出会ったことでエドゥアルドも出し抜いていく。
それはまさに自分を理解できない人物、
自分の興味のないものを切り捨て、
その都度理解してくれる者、興味の対象を見つけて
次々と先に進んでいく天才の本能そのものである。

そして「世界最大のSNSが創設される過程」と、
「関わった人間たちから起こされる裁判」、
映画はこの二つの出来事を行き来しながら
創設者のマークとエドゥアルド、ウィンクルボス兄弟、
ショーンとの関係を一気に見せていく。
何よりも驚くのは映画の中で流れる「時間」の感覚である。
最初にマークが「facemash」を思いついてから
大学のサーバーがパンクするまで所要時間はたったの8時間。
そしてその出来事きっかけに世界最大のSNSが誕生。
その創設にかかわった人間たちが法廷で争うまで
要した期間はたったの8ヶ月である。
半日にも満たない時間で行われた出来事の影響力。
1年にも満たない期間で行われた出来事の濃密さ。
その速さはまさに「時代が変革する速さ」といえるだろう。

そしてその速さを語るこの作品の「時間の流れ」そのものも
観客を試すかのようなスピード感であり、
ついていけないものは置いていくとばかりの
挑戦的な態度で実に歯ごたえのある作品だった。

「勝利者」とは何か?それは「ルールを守る者」ではない。
真の勝利者とは「ルールを作る者」である。
つまり、ウィンクルボス兄弟やエドゥアルドのように
旧来のルールや商慣習を悠長に守ろうとする者は、
SNSという新しい社会において勝者にはなれない。
片やマーク・ザッカーバーグやショーン・パーカーは
まさにネット社会において新しい秩序を作った「勝利者」である。
だが新たな変革をもたらした先駆者の見る世界は
理解できる者のいない孤独な世界でもあった。
確かに彼は会員数5億人のSNSの創始者になった。
それはまさに彼が入会を欲したファイナルクラブを
自ら新しく作りだし、永遠の寮長になったようなものである。
だがいくら仮想空間で仲間を増やそうとも、
実際にキーボードを叩く彼のそばには誰もいない。
その孤独は、まさに現代を生きる僕らの、
現在進行形の普遍的な題材でもある。


いやー、正直まだまだ語りきれないです。この作品。
あと数日経ったらまた違った考えが浮かぶかもしれない。
それだけ強烈な作品でした。いやー、面白かった。