後悔。 | 幼恋。

幼恋。

小さいころの私の、理想の恋愛のかたち。

もっと泣けばよかった。
もっと素直になればよかった。

康平くんは、麻亜子から連絡を受けて、私の様子を見にきてくれたそうだ。
「颯太が合宿でいなくて、俺以外に頼めないからって、半べそかいて電話してきたんだよなぁ、麻亜子」
困ったような笑顔だけど、きっと嬉しかったんだろうということは、康平くんの表情から読み取れる。
「心配かけてごめんね。麻亜子にも悪いことしたと思ってる。試験の直前なのに・・・」
私は、自分の短絡的な行動を恥じた。
麻亜子はずっと目標にしていた、留学の選考試験を目前に控えていたのに、泣きながら電話して心配かけてしまった。
「碧ちゃんが謝ることないよ。麻亜子、碧ちゃんのために何か出来ることをしたかったんだよ」
康平くんのいつもと変わらない優しい口調に、少し落ち着きを取り戻す。

「プ、プロポーズ・・・⁉︎え?あの彼氏さん?」
私は康平くんに説明した。
転勤が決まって、プロポーズされたこと。
「・・・うん」
「うっわ・・・!マジかぁ・・・」
驚くよね。だって私達、まだ高校生だもん。
「やっぱりなぁ。めっちゃ本気っぽかったもんな」
一人で納得するように康平くんに、私は苦笑した。
「・・・それが、そうでもなかったんだ」
「え?」
暗くなりつつある河川敷で、サッカー場のベンチに座りながら、私はポツリポツリ話しだす。
「私、本気にして、すっごく悩んでね、誰にも言えずに一人で考えて。答えを出して会いに行ったら・・・」
なんて言った?省吾くんは。
心臓が、痛い。
「振られちゃった。冗談だったって」
口に出すと、泣きそうになる。
キツい。まだ心がズキズキする。
「え⁈どういうこと?」
「・・・単に女子高生と付き合ってみたかっただけだったって。でも、もう子供の」
あ、やばい。声が詰まる。
「・・・子供の相手はもう飽きたって」
涙が流れた。
あ、やだ。誰かの前で泣きたくなかった。
慌てて涙を拭く。
「やー、馬鹿みたいだよね。からかわれてただけだったんだ」
康平くんが、答えに困っているのが伝わってくる。

しばらくの沈黙の後、康平くんが私に問いかける。
「なんて答えたの?」
「え?」
「プロポーズ」
「・・・」
何も答えられなかった。
それが、答えだった。
ただ、ごめんなさい、と。
うつむいた私の様子を伺いながら、慎重に言葉を選んで康平くんは続ける。
「俺、思うんだけどさ。彼氏、碧ちゃんの気持ちを確かめたかっただけなんじゃないかな」
え?
思わず顔を上げて康平くんを見つめる。
「確かに焦りすぎたよ、彼氏。プロポーズは。俺らまだ高校生だし」
康平くんも苦笑する。
「でも、ただ知りたかっただけじゃないの?碧ちゃんが自分と離れたくないって思っているかどうか」
え?
知りたかった?
ただ、離れたくないかどうかを?
「ついて来れるとは思ってなかったと思うよ。現実的ではないじゃん?でもいいんだよ。多分、言って欲しかったんだよ。ついて行きたいって」
私は次の言葉を待っていた。
体が震える。
「なんでも良かったんじゃない?『ついて行きたいけど、学校あるから無理でしょ?』でも、『私だって離れたくないよ』でも。碧ちゃんの気持ちを、聞きたかっただけじゃないかな」
ハンマーで殴られたような気持ちになった。
頭がガーンとした。

確かめたかっただけなの?私の気持ち。
ホントについて来いって、無理強いしてたわけじゃなかった?

「それで、なんで答えたの?碧ちゃん・・・」
康平くんは言葉を失っていた。
私がボロボロ泣き始めたからだ。

私、なんて答えた?
省吾くんの本気に、なんて答えた?

「ごめんなさい」
期待していた答えとは、真逆のこと、私は言ってしまった。

何にも答えてなかった。
自分の気持ちを一度も伝えてなかった。

どうして大切なことを忘れていたんだろう?
省吾くん、なんて言ってた?
「俺のこと、好きになって?」
それが、たった一つの、彼の願いだっのに・・・!

「私・・・!」
言葉にならず、私は両手で顔を覆って泣き始めた。
どうして分からなかったの?
省吾くんの気持ち。
「あ、碧ちゃん…」
心配そうな康平くんの声がする。
戸惑っているのが分かる。
でも、ごめんなさい。
止まらないよ・・・!