子ども頃から高齢者と接する機会がなかった。父方の祖母と会う機会があったという想い出程度だ。
しかし、大人になってからは交流することも少なく苦手意識があった。
そんな老人達が登場するこの物語は、読書好きの高齢者グループが描かかれる。
内容
小樽の古民家カフェ「喫茶シトロン」には今日も老人たちが集まる。月に一度の読書会〈坂の途中で本を読む会〉は今年で20年目を迎える。 店長の安田松生は、28歳。小説の新人賞を受賞し、本を一冊出したが、それ以降は小説を書けないでいる。昨年叔母の美智留から店の運営を引き継いだばかりだ。その「引き継ぎ」の一つに〈坂の途中で本を読む会〉のお世話も含まれる。何しろこの会は最年長92歳、最年少78歳、平均年齢85歳の超高齢読書サークル。それぞれに人の話を聞かないから予定は決まらないし、連絡は一度だけで伝わることもない。持病の一つや二つは当たり前で、毎月集まれていることが奇跡的でもある。安田は店長の責務として世話係だけをするつもりだったが、「小説家」であることを見込まれて、この会の一員となる。 安田は読書会に対しても斜に構えていた。二作目が書けない鬱屈がそうさせていたのかもしれない。しかし、読書会に参加し、自分でも老人たちと「語る」ことで心境に変化が訪れる——。
初めは少し距離を置いて高齢者の「読書会」に関わっていた主人公の小説家の安田であった。高齢者に対する気持ちが私と同様でやや批判的に見ていたと思う。
高齢ではあるものの無類に元気でわがままな人々として描かれてきた会員が、そう遠くではないところに死の迫った老人であるという事に気づかされる。
人生の終焉を感じている老人達の気持ちを理解しようと寄り添う姿勢を持つ主人公は人として成長していく。
読み手として当然俯瞰的に見ていた私も最近は、人生の終焉を考えるようになっている。その年齢にならないと理解できない感情があるものだと今更に気づかされる。