【写真講座】(4)大きい絵と小さい絵 | Photo Life in Toyama

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富山の写真家 林治のブログです

いつも Photo Life in Toyama へご訪問いただき、ありがとうございます。

 

さて、本日は我々協会内部での勉強会にも使用した「大きい絵・小さい絵」の内容を修正し、備忘録として投稿するものです。

協会の勉強会と言っても肩に力を入れて頂かずに、写真の一般知識として眺めていただければ‥と思います。

 

 

【写真講座】(4)大きい絵と小さい絵

 

写真家であれば一般的に「大きい写真と小さい写真」という言い方をするのですが、ここでは誤解を招かないように「大きい絵と小さい絵」というタイトルでご説明したいと思います。

 

まず、このお話の主旨です。

 

 

  1.絵もデザインもイラストも写真も、最終作品サイズによって中身を変えるものです

 

今日の内容はこれだけです。

 

・・というと終わってしまうので、もう少し解説しますね。

 

 

  2.イラストの例

 

「1.絵もデザインもイラストも写真も、最終作品サイズによって中身を変えるものです」と書きましたが、これをイラストを生業とされている方がウェブで発信されている内容を使わせて頂き見ていきたいと思います。

※すみません。webから借用させていただきました。

 

下のイラストをご覧ください。

 

この方は、No.1のイラストを描いた後、そのプリント紙が大きいサイズに変更となったため、大きいサイズ向けにNo.2を描き直した事を解説されています。

 

No.1 小サイズ印刷用イラスト

 

No.2 大サイズ印刷用イラスト

 

違いが分かるでしょうか?

 

下の絵(No.2)の方が絵が細密であり、また主人公のキャラクターの周囲の様子が細かく描かれており、構成も複雑になっていることが分かります。そして、ストーリー性がより表現されているようにも感じますね。

これはあとから印刷サイズが変わった例とのことですが、それによって中身をこれだけ変えていることが分かります。

 

 

  3.大きなサイズの作品と小さいサイズの作品では何が違うか

 

このように、絵画、イラスト、デザインでは作品サイズにより内容が変わることは普通の事として捉えられていますが、絵画と同じルーツを持つ写真でも当然同様の事として捉えられています。

 

小サイズと大サイズ

 

ここでは、例えばポストカードサイズにプリントした作品、スマホ画面で作品を見る場合、ノートPCの画面で作品を見る場合といったA3(〜A3ノビ)までのサイズを小さいサイズと呼んでいます。

また、これより大きいサイズ、つまりB3、A2、A1、A0、B0といったサイズの作品を大きいサイズと呼んでいます。

 

その上で、まず小さいサイズの作品と大きいサイズの作品それぞれについて、どのような特徴を持っているかを挙げてみます。

上のイラストの例を見ながら読んでいただければ、なお理解できると思います。

 

小さいサイズの作品の特徴

 

・視線を動かさなくても全体を見渡すことができるので、視線誘導など、大きな作品に一般的に使用するテクニックが必要ない。

・サイズ的に作品の細かい部分まで肉眼で見れないので、細かい部分を見せるような作品は向いていない。

・作品の内容として、単純な構成のもの、余白部分の少ないものが向いている。

・例えば「黒ベタ」などじっくり見ても中身のない部分が構成上広い範囲を占めることは大きな作品では御法度ですが、作品サイズが小さければ気にならないといった面があります。

 

大きなサイズの作品の特徴

 

これは小さいサイズの特徴の逆なので簡単ですね。

 

・大きなサイズの作品は長時間じっくり見ていただく前提の作品なので、鑑賞者の視線や感情を考えた上で、視線誘導や構成・構図・ストーリー性に工夫を凝らす必要がある。

・鑑賞者が細かい部分まで見て楽しむことができるように、作品の細かい部分まで見せる内容の作品が向いている。

・作品に絵画等の基礎技術、例えば主題ー副題、遠近感表現といったものが必要になる。また、全体が窮屈な構成だと長時間の鑑賞に耐えないので、余白や間といった配慮が必要となる。

・「黒ベタ」や「白トビ」といった中身のない部分が広い範囲を占めると鑑賞者が違和感やストレスを感じること。黒ベタ部分が大きいと暗くて鬱陶しい絵になることから、これらを減らす必要がある。

 

 

大きい絵と小さい絵

 

そして小さいサイズ向きの比較的単純で遠近感やスケール感に乏しい構成の絵のことを「小さい絵」。大きなサイズ向きに仔細に構成された絵のことを「大きい絵」と呼びます。

 

そこで笑っているあなた!

あなた、縦位置ばかりで、しかも被写体をアップ気味にばかり撮っていませんか?

 

そんなそれぞれの人の癖が原因で「小さい絵」や「大きい絵」ばかり作っている人もいます。

 

 

  4.写真は引き算?

 

ところで、こうしたことを書くと「写真は引き算じゃないの?余分なものは極力引くことが重要だよね。」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

 

そしてこれを根拠にほとんど「主題」だけに見えるような写真ばかり撮影する方もいらっしゃいます。

でも、写真は引き算をおこなえば良いというほど単純ではありません。

 

ではそもそもの話、今でも世の中で「写真は引き算」なんて・・言われているのでしょうか。

 

ちなみに現在Googleで「写真は引き算」を検索すると、ほとんど「写真は引き算と足し算」といった内容が出てきます。

絵画ではよく「主題・副題」という言い方をしますが、写真でも主題だけでなく副題やその他構成要素を入れて作るものという基本が、最近あらためて言われているように思います。

 

また、写真は引き算を極端におこなうと遠近感に乏しい平板な絵になりがちというデメリットも生じます。

 

つまり、既に現在ではベタの写真初心者に言う場合を除き、「写真は引き算」はもう死語なのではないかと思います。

 

もちろん余分な要素を除外することは必要なので、やはり現在では「写真は引き算と足し算」という言い方がベターかなと思います。

 

また、「写真は引き算」に近いイメージの言葉として「ミニマルフォト」や「断ち切りの構図」といった言葉がありますが、中身は全く異なります。ミニマルフォトには、主題のみをアップで表現するような写真はありません。

 

下三角ミニマルフォト

 

ミニマルフォトとは「最小限の要素から生まれる最大限の芸術」とも言われ、要するに最小限の構成要素を組み合わせてARTとして美しい空間バランスで表現する写真です。

これは、単に極限まで構成要素を減らすことが主眼ではなくて、空間バランスを表現することに主眼が置かれていて主題だけでは成り立ちません。きちんと絵画的な構図の上に成り立つバランス美が表現されている写真と言って良いでしょう。

 

ミニマルフォトの一例

 

断ち切り構図

 

断ち切りという表現は主に日本の浮世絵に対して使われます。

しかしながら、日本の浮世絵がすべて断ち切りかというとそうではありません。

 

そして、重要なことは「断ち切り」の構図を行なおうした場合、とんでもなくその断ち切る部分のバランスに関する技術が必要だということです。

 

例えば、下の画像をご覧ください。

 

これは断ち切りの構図の一つの代表作ですが、この場合の断ち切りは、主人公が持っている薙刀が断ち切られて描かれていることです。また、その断ち切りは違和感なく非常にバランスの良い構図として行なわれていて、単に画面を単純化する引き算として行なわれている訳ではありません。

 

浮世絵における断ち切りの一例

 

ご存知葛飾北斎の 富嶽三十六景 神奈川沖浪裏

非常に複雑な構成と緻密なバランスの絵

 

  5.(再度) 小さいサイズの写真と大きなサイズの写真では中身を変える必要がある

 

言いたいことは、これを理解しましょう、ということです。

 

実は、日本では一般的に小さい絵が非常に多く見られますし、サイズの大小によって写真の中身を変える必要があるという認識も少ないようです。

 

それは、一般的に写真をスマホで見ることが多いこと。また、自分の写真を大きなサイズにプリントする機会が少ないことが主な要因だと思います。

 

また、ちょっと写真をやっている人でも、アマチュア写真クラブなどが写真展を行なう場合など、展示する作品は「サイズをA3ノビサイズに統一して、額も全員同じものを使用しましょう」といった形をとり、写真展への出展に慣れていない人でもプリントの手間を少なくし、誰でも設営が簡単にできるように配慮している場合が多く、こうした大小のサイズの差を考える機会が少ないことも要因となっていると思います。

 

そこで、有名写真家の写真展を見に行くことをお勧めします。

 

いわゆる有名写真家の写真展へ行くと、写真サイズも様々なものを展示している場合が多く、その中身もサイズの大小で変えていることがよく分かります。もちろん報道や広告の方の場合、元々雑誌に掲載する写真であれば雑誌サイズで展示している場合が多いので違いが分からないかもしれません。

 

が、こうした見方で色々な写真展を見ていると、写真家によって展示サイズ・展示方法など全くアプローチが違うのでそれも楽しみの一つになると思います。

 

 

  6.大きい絵・小さい絵を作るには

 

大きい絵・小さい絵は、作品で表現したい内容に応じてどちらも作れるようになりたいものです。

 

例えば、小さい絵しか作ることができない人、それで良いと考えている人は、大きな作品・小さい作品が混在してそれぞれが輝き、またハーモニーとなって写真展全体が見事なアートとなるような素晴らしい写真展を開催することはできないかもしれません。勿体無いですよね。

 

そしてこれが重要なのですが、大きい絵・小さい絵、どちらも作れるようになるのは、実は簡単です。

また、誰でも簡単にトレーニングを行なうことができます。

 

その方法は・・

 

一箇所で撮影する時に必ず「小さい絵と大きい絵」の両方を撮影するようにすること。

 

これだけです。

 

このトレーニングによって、同じ撮影地・同じ撮影ポジションでも絵の構成を全く異なったものにできるようになります。

また、構成を変えるために迷わずレンズを交換することができるようになります。

 

簡単ですよね。

もちろん今まで通り1種類の写真だけ撮影する事に比べたら手間はかかります。

でも、たったこの程度の努力を惜しんでやらないなんて、勿体無いですよね。

 

 

  7.大きい絵・小さい絵の必要性

 

ここまで色々なことを書いてきましたが、おそらく風景写真をされている方など、「おれはいつも大きい絵を意識しているからそれでいいよね。」と思われていることでしょう。

 

でも、これもちょっと違います。

 

大きい絵しか作れない人は、小さい絵しか作れない人と一緒です。

例えば写真展で、来場者の鑑賞順路に従って作品を展示しようとした時のことを考えていただければと思います。


来場者が写真展を進んでいくうちに、同じような構成の作品ばかりが同じサイズでずっと並んでいる状況では、来場者が楽しく感じない場合が出てきます。

大きい絵の内容、大きいサイズの作品だけでは作品展示の流れ、ストーリー、緩急が作りにくいからです。

 

私は今でもアマチュア写真クラブの写真展へよく行きますが、入口を入って会場内を見た時、見渡す限りの壁全面に同じような傾向の同じようなアングル・構成の作品が、同じサイズの同じ額で等間隔に展示してある場面に遭遇することがあります。

すみません。私はこうした場合、最悪最初の1人2人だけ見て帰ってしまうこともあります。

 

こういう時、大きい絵・小さい絵のどちらも作れる人であれば、例えプリントサイズが同じでも、こうした中で流れや緩急や変化を作ることができます。

 

また写真集を制作する場合は、さらにストーリー性・全体構成の巧みさが要求されるので、写真展以上にこうした構成力が必要になります。

 

ということで、大きい絵・小さい絵を意識してまずは実践してみましょう!

 

 

昨年10月、大阪の作家・吉川氏の展示例

 

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