秋ですね。藤村です。

前回の記事を書いた後、ちょっと補足を書く必要があるかなあと思っていた点があります。
そう、「他の国では外国人留学生から高い学費を取っているのに、日本では優遇している」論です。

繰り返しですが、この記事の「留学生を自国生よりも優遇する国はない」のインパクトが強すぎなんじゃないでしょうか。
ちなみに「外国人留学生 優遇」でググると、一番目は私のブログ、二番目に表示されるのがその記事です。ライバルだね!(ちがう)

ともあれちょっとしっかり、分析してみましょうか?

以下引用。
------
OECDの統計によると、欧米の大学の場合、外国人留学生は自国の学生に比べて平均約3倍の授業料を払っている。オーストラリアは自国民の授業料が円換算で約45万円に対し留学生は約130万円、カナダは約36万円に対し約95万円、イギリスは約22万円に対し約170万円である(これは平均であって、一流大学となれば授業料は跳ね上がる)。
------
引用ここまで。
2013年の記事なので、この数字を直接ファクトチェックするのは難しいかもしれません。海外の7年前の数字を調べるのは骨です。
なので、少なくとも今現在はどうなのかということに着眼しますね。

使用データ:OECDインディケータ

こちらと、こちら

(日本でいう)国公立大学学費について、
自国生と留学生で差異が無い国(No differentiation)
チリ、フランス、ギリシャ、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ノルウェイ、スロバキア、スペイン、エストニアも一応。以上11か国。

自国生と留学生で明確に差異のある国とその倍率(1ドル100円換算)
オーストラリア(学部生50万:190万、修士課程89万:183万、博士課程26万:162万)
カナダ(学部生53万:204万、修士課程55万:130万、博士課程NoData)
ラトビア(学部生43万:73万、修士課程45万:81万、博士課程58万:105万)
アメリカ(学部生88万:248万、修士課程~博士課程NoData)⇒そもそも州外から来た学生に高い授業料を取っている。

自国生と留学生で差異のある国(ただしEUやEEA内では差異は無い)
オーストリア(学部生~博士課程9万:18万)
スウェーデン(学部生~修士課程0:147万、博士課程0:0)
フィンランド(Differentiation of tuition fees based on the language of the programmes)
スロベニア(Institutions may charge higher tuition fees for students from outside the European Economic Area.)
ベルギー(For students from outside the European Economic Area, institutions have the autonomy to fix the amount of the tuition fee, except for some categories of sudents (e.g. refugees, asylum seekers).)
(Institutions may charge higher tuition fees for students from outside the European Economic Area.)


データが比較不可能など
デンマーク
ニュージーランド
オランダ
スイス
イギリス
ドイツ

・・・・・

取り敢えず、以上の情報を整理すると以下の通りになります。

OECDの統計によると、授業料については、
・ 自国生より留学生の方が高額に設定されている国がある。
・ データ不存在を除けば、留学生の方が安く設定されている国は無い。
・ EU内では同額であり、EU外からの留学生には高額に設定している国もある。
・ 無条件に留学生>自国生なのは、カナダ・オーストラリア・ラトビア。


ちなみにここで言っているのはOECD統計の整理だけです。
統計ではデータ比較不可能としているドイツでは、バーデン=ヴュルテンベルク州以外では同額である、という情報もあります
あんまりエビデンスは無いのですが、イギリスやニュージーランドは留学生のが高かったかと。

で、件の記事と比べてみるとどうでしょう。
オーストラリアとカナダについてはそこそこ近い数字が出ているような、出ていないような。7年前だからかしら。

それにしても、きれいにその二か国を抽出してあたかも普遍的であるかのように議論してますね・・・まあいいですけど。
 

しかし、「OECDの統計によると、欧米の大学の場合、外国人留学生は自国の学生に比べて平均約3倍の授業料を払っている。」は言い過ぎではないでしょうか?どんな計算式なんでしょう。

OECDインディケータも、つい最近の2019年のも、たぶん当時の2012年のも、何倍とも言っていないような。

そもそもNo differentiationがこれだけの数あるのに、平均3倍にはならんでしょう。EU内は同額ですし。学費総額でしょうか?いやそれはいくらなんでも卑怯でしょう。

オーストラリアの大学の場合、外国人留学生は自国の学生に比べて約3倍以上の授業料を払っている。」ならファクトですが。

ということで、私のライバル記事(?)は極めて重要な箇所でミスリーディングしています。

初見の人が見たら、外国人留学生は自国の学生に比べて平均約3倍の授業料を払っている、って言葉のみを飲み込んでも不思議じゃありません。

7年前だからなのでしょうか???訂正してほしいなあ。

 

そしてサブタイトル「留学生を自国生よりも優遇する国はない」についても、これまで何度も書きましたが、

国費留学生を除いた私費留学生は、貸与奨学金すら使えません。貸与奨学金が絶対的に素晴らしいとは言いませんが、それすら使えない学生を想像してください。月3万円を追加で稼ぐのにどれだけバイトを増やさないとならないのか。自給が1000円ですら週8時間追加でバイトしなくてはならない。奨学金制度について、留学生のが優遇されているとは言えません。

サブタイトルが「(日本含め)留学生を自国生よりも優遇する国はない」なら概ね文句ありません。

ファクトチェックをしてみよう。
ところで、前述の数字を踏まえると、いろんなファクトチェックができるようになります。

 

 

わお!

日本のはともかく、他の国のはどうでしょう。たぶん別の調査の数字を使ったのでしょうね。

日本のについては、完全なるミスリーディングです。前回の記事でも書きましたが、国費留学生は3、4%です。

 

それと最近、Twitter界隈で国費留学生叩きをしている人がいるようです。

小野寺まさはる。ツイートを見ていると、例の記事も使われているようなので、取り上げてみたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いかがでしょうか?なんとなく、ツイートから傾向を分析できるのではないでしょうか。

 

① 一切一次データに言及していない。

引き合いに出されているのは件の記事のみ。「あの記事はOECDの調査結果を説明しています」というツイートもある通り、ソースは件の記事なのでしょう。

皆さんも怪しいツイートに騙されたくないと思ったら、とにかく一次データにあたることにこだわりましょう。

嘘を嘘と見抜けない人にはTwitterを使うのは難しいです(デマを流してもいいや☆と思っている人は除きます)。

 

② 数字は出さずにミスリーディング

・「他国では留学生の学費が普通の学生より高いのは当たり前」「その額も数倍であることはザラ」

上述より、「当たり前」は言い過ぎですね。悪質なミスリーディングです。EUのことも考慮する必要がありますしね。

・・・あれ、ちょっと待ってください。件の記事の「OECDの統計によると、欧米の大学の場合、外国人留学生は自国の学生に比べて平均約3倍の授業料を払っている。」が利いているんじゃないのこれ?(名推理)

 

・「その何十倍もの私費留学生に対しても税金で授業料等を助成していますから」

これはもう崩れたのではないでしょうか。前の記事でも書きましたが、特に今年以降、新しい授業料減免と給付型奨学金からは留学生が外れています。しかしふわっとした表現で、数字を出さないですねこの人。

 

・「国費留学生制度を続けたいなら対象者も限定されたごく少数にすべき」

3,4%は限定されたごく少数ではないのかしら。

そんでもってここでも数字を出さないですね。

 

おわりに

つかれたー。

ほんと、何かを検証するのってすごく時間がかかるんですよね。

マジであの記事、訂正されないかなあ。あるいは何か別の資料とか調査とか、一次データが出てこないかなあ。

私も大した身分ではないので、国会図書館に足を運んだりとか、議員みたいに官僚を呼びつけての一次データ探りまではできません。せいぜいグーグルと言う素晴らしいサイトに聞くくらいです。それでも色々なデータが出てきますけどね。

 

あと、私は優秀な留学生は優遇してでも呼んだ方がいい(日本の国益になる)と思ってますので、その時点で意見が食い違う方もいるかもですね。