消滅してしまった町。かつて商店がずらりと並んでいた表通りと、かつて怪しげな色の看板がひしめき合っていた小路との交差点あたりには、町の繁栄と衰退が記憶となって染みついている。直射日光と雨風雪に晒され過ぎて劣化したアスファルトに、まるでモノクロ映画の薄い影のような記憶の染みが広々と横たわっているのであった。
誰もが永遠に続くと信じていたあの繁栄は、実にあっけなく終焉を迎え、それらを支えてきた労働者たちとその家族たちは去っていった、町が賑やかだったころの思い出や残像をうち捨てて。ときおり風がやってきては、その染みの存在を確かめるかのようにアスファルトを撫でていく。
人々が動き出す朝の気配、トラックのクラクション、バスの排気音、鉱夫たちの濁声、おかみさんたちの笑い声、たばこの煙、新しい橋の竣工式、運動会の歓声、繁華街の嬌声、街灯に群がる虫たち、パレード、ラジオ体操、盆踊り、祭り、縁日屋台、怪しげなテント、川遊び、公園の遊具、走り回る子どもたち、突き抜けるような青空、万国旗、銭湯の湯気、怒号、喧噪、消防車、パトカー、救急車、サイレン、ヘリコプター、絶叫、嗚咽などなどが見えない気配となって立ち上がる。どうして取り残されてしまったのか、未だに納得できないのだ、と。
今宵、雪灯りがスポットライトのように交差点を照らす。実の多くの人たちに踏みつけられ、歓喜と欲望と絶望が交差したあの場所。
記憶の染みの上を雪が降り積もる。あれから気が遠くなるくらいの時間が経っているのに、誰も戻ってはこなかった。誰も鎮めてはくれなかった。やってくるのは、自分の役割はまだ続いているのだと云わんばかりに、吹く風だけだった。