振り向くと
波打ち際に残る
あまりにも細く頼りない足跡が
僕を追いかけているのに気づく
やっと鳥になれたのだ
波で濡れた砂を嘴で突いてみる
その冷たさと味気なさが
生きることへの不安を駆り立てる
でも、それはまだ僕の中に
人間の残骸が
記憶としてあるからなのだろう
でも
高いところが苦手だったことや
作り笑いが下手だったことや
死ぬまで愛犬の死の悲しみから逃れられなかったことや
最期を最愛の人に見送ってもらえたことなんかは
時が経てば消えていくはずだ
それらが跡形もなくなってしまったら、
ようやく僕の中に萌芽した
鳥の本能が目を覚ます
どこまでも高く飛んで
ちょっと不器用だけれど風に乗って
照れくさそうに大きな声で啼いて
生きていくことだけに夢中になって
そう思わなければ鳥になった甲斐がない
日が昇る
砂が少しずつ温もりを抱え始める
風が雲に波紋を刻む
山の木々が複雑なウェーブを作る
波に反射する陽光が幾何学模様に見える
青空を伝って宇宙の音が聞こえる
僕の眼差しは今、
鋭い猛禽のものとなり
これまで聴いたことのない音が頭の中に鳴り響く
そこで初めて僕は羽を広げてみる
想像以上の大きい翼と風を切る音
僕の中からいろいろなものが
削ぎ落されていくのを実感する
ゆっくり羽ばたく
砂浜と海の青さが水平に流れていく
自分の影が青い水面を滑っていく
夕べ見た、父さんと母さんが笑っている夢の画像が
最後にふっと消えました