台所のラップが切れたのでドラッグストアに行こう。ここでの鼻歌はやっぱラップでしょって、いい歳のおっさんが唯一知っている「ブギーバック、ブギーバック」を口ずさみながら快調に歩いていた、それなのに。

雪で狭くなった道を若い男がのろのろと塞ぐようにして歩いているので、ちょっと頭にきた。さらに頭にきたのが、そいつ歩きタバコなんぞをしているではないか。副流煙が真っすぐ俺様の鼻腔に向かってくる。これはまったくけしからんと思って、俺様は奴の背後三十五センチの至近距離から中年ホストのような色っぽい声で「もしもし」と声をかけた。振り向いたのは、マヌケというタトゥを入れているのではないかと思えるほどのマヌケさが浮き彫りの顔だった。

「あん?」みたいなことをマヌケ顔は言ったので、俺様も「おん?」とレスポンスしてあげた。そして、歩きタバコやめようね、とやさしく囁いてからそいつの右手の指に挟んでいた吸いかけタバコを抜き取って、火の点いた方を上に向けて鼻に挿入してさしあげたっけ、鼻の中の粘膜が焼ける臭いがした。

実は、俺様の「おん?」は呪文であって、耳元にこれを吹きかけられた者は、たちまち四十一秒間身動きと呼吸ができなくなる。でも、なぜか屁だけ出る、というか必要以上に出てしまう。だからこのマヌケ君は声もあげられず、火傷した鼻の穴からタバコを垂らして、屁も垂れ流して、四十五秒間お地蔵さんのように立っていることになるのだ。しかし四十一秒というのは実に微妙で半端で、しかもこんな雪道、息を吹き返したというか呪文が解けたあいつは俺様に追いついて、今度はこっちがボコボコにされるかもしれない。

って焦りで呼吸を乱しながら走っていたら、今度はスマホにかぶりつき状態でのたのた狭い道を歩いていている奴がいるではないか。頭にきたので「もしもし」「あん?」「おん?」

スマホをアホ面男の半開きの口に突っ込んでから、新たな長い屁の音を聴きながら、またもや四十五秒の雪道脱兎ダッシュが始まったのである。