そういえば昨日の夕食前、胃に鈍痛を感じたことを思い出した。数日前から続いている。頭の中に自分の胃袋の裏側の画像を思い浮かべようとした。しかし、怖くて内視鏡から逃げ続け、ホルモン焼の「ハチノス」も直視できない僕の記憶の中にそんなサンプルはない。そこに現われたのは柘榴の中身、あの赤黒くて小さなプチプチ。たとえばあそこに刺激物を流し込んだとしたら、プチプチの超極薄の表皮はひとたまりもなく破られ、生命体の基本である細胞はことごとく壊滅、つまり、死に近づいていく。それと腰の右後ろにも変な痛みが。脂肪肝という言葉が頭をよぎる。そのたびに霜降りで肥大したレバーを想像してしまう。あれが腰を圧迫してきているではと恐る恐る手で触ってみる。肝だけでは飽き足りず、辺り全体に脂肪が万遍なくについている、それはそれでヤバい。だから、お前もこれ以上酒を飲んだら死ぬぞ。と、午前中の人格が主張する。わが身を案じてのこと、ありがたいものだ。

 

ってことは何かい?身体のこと案じて今夜は酒を休むと。いや、そりゃそうかも知れませんけれどね、この間こんなことあったじゃございませんか。ほら、腰の辺りになんか重たいような痛みがあって、これは間違いなく内臓系の問題、ほら何ていいましたっけ?沈黙の臓器、いやですねこのやんわりと恐怖を与えるような例えが、ま、それはともかく、いよいよ俺もヤキが回ったか、ってそれなりの覚悟はしましたよ。でも、次の日にちょっと力仕事したっけその痛みが増した、ってことはだな、これは腰痛だ、筋とか肉の問題であって、やっぱり内臓は沈黙なんかしちゃいないんだよ、わはは、ってことで祝杯あげましたっけね。だからこれもそうなんじゃないの?と、午後の人格が主張する、これで今夜も楽しい時間を過ごせる。ありがたいことだ。

 

みーんな、どうせいつかは死ぬんだよ。俺はね、死ぬなんてちーっとも怖くない…胃カメラは怖いけれど、てへへ。まあそれはともかく、これまでの人生はそれなりに楽しく生きてきたし、やり残したことなんか…ないことはないけれどね。たとえばさ、浮気を繰り返す俺に愛想をつかして出て行った女房が「やっぱ、男は甲斐性ってものがなきゃだめだね」とか言いながら戻ってきたら、あと大喧嘩して捨てゼリフ吐いて辞めたあの会社から「やっぱ、君のような人材が必要なんだ、役員待遇で待っているよ」と社長直々にお願いに来たりとかしたら、そりゃあもう少し生きていようかなとかは思うけれど。あとあれだな、たとえばガンが見つかって余命宣告なんかをされた際、あのとき断酒しておけばよかった、みたいな後悔は絶対しないぞ、胃カメラ飲まないので決定的証拠がないから逮捕状が出ない、そりゃ防犯カメラだな、刑事ものドラマの観すぎだな…と夜の酒飲んで乱れた人格が主張ではなく吹聴する。これで充実した気持ちのまま一日を終えることができる、ありがたいことだ。翌朝には後悔だらけだけれどね。