町の風景から消えてしまう日が来るかもしれない。
ビールや日本酒などを扱う酒の自動販売機が全国で激減している。未成年者の飲酒防止を目的に
業界団体が撤廃を進めた結果、平成8年の約14%にまで減少した。
ただし、大阪国税局管内(近畿2府4県)には、運転免許証による年齢識別装置が付いていない従来型の自販機が全国最多の約2700台も残存。中でも大阪府が「ワースト1」というのだが、 その理由(わけ)は。
■大阪がワースト1
「なんで酒買うのに免許が必要やねん?」
大阪市西成区のあいりん地区で、無精ひげを生やした無職の男性(68)は 自販機で買ったカップ酒をあおると、こういって笑った。
全国に残る従来型自販機は7688台。大阪国税局管内には35%(全国最多)にあたる2696台が残っている。
このうち府県別では、大阪府が1056台(39%)でワースト1位。
同府内では大阪市が514台と抜きんでており、中でも西成区が特に多い。
なぜ、大阪に多く、西成区に集中しているのか。
同区の三角公園わきにある自販機コーナーで、前述の男性に従来型機が多い理由を尋ねると、「このあたりで運転免許証を持ってる人間がどれくらいいると思うてるんや?もし免許がないと酒が買えんかったら、誰も買われへんで」と半ばあきれたように返答した。
■関西人特有の商人精神
こうした事情に加え、関西人特有の気質を理由にあげる声もある。
大阪府小売酒販組合連合会(大阪市)の松田武会長(72)は「特に大阪は『商人(あきんど)精神』が他の地域よりも強く、もうかっている自販機をみすみす手放すことに抵抗がある。
このため、年齢識別装置が付いた改良型機への切り替えがうまくいかず、従来型機がいまだに多く残っているのではないか」と分析する。
全国ワースト1を返上するため、大阪国税局は同連合会と連携して自販機の撤去を指導しているが、「ほかの店はまだ置いているのに、なんでうちだけ撤去せなあかんのか」と激しく抵抗されることが少なくないという。
■未成年者飲酒防止が背景
そもそも、自販機が激減した背景には、未成年者による飲酒防止運動の高まりがある。
発端はビール酒造組合(東京)が平成4年に行った調査だった。飲酒歴のある高校生の55%が自販機で酒を買っていたことが判明。
それを受け、酒小売店の全国組織「全国小売酒販組合中央会」(同)は7年、年齢識別装置がついていない従来型機は12年5月末までに撤廃することを決め、自主的に推進。
将来的には、改良型機も含め、酒自販機自体の全廃を目指している。
酒税を徴収する国税庁も組合の運動をバックアップ。撤廃方針決定直後の8年3月時点で約18万6千台あった全国の酒自販機数は、23年4月には2万6830台にまで激減した。
■規制緩和が追い打ち
15年に実施された酒類販売の規制緩和がそれに「追い打ち」をかけた。
コンビニで酒が24時間購入できるようになったことで、自販機のメリットが失われてしまった。
とはいえ、小規模な小売店にとって、売り上げ全体の約1割を占める自販機が貴重な戦力になっているのも事実だ。
西成区のある小売店主は「経営が先細りする中で自販機は強い味方。
従来型機の撤去と改良型機の購入で130万円はかかるため、古いものを壊れるまで使い続けるしかない。
撤廃の趣旨は理解できるが、あくまで組合の自主規制で罰則規定もない。
正直者がバカを見るということになりかねない」と本音を明かす。
■たばこは「成功」
改良型機への切り替えがスムーズにいかなかった酒自販機に対し、たばこ自販機は切り替えに成功した。
未成年者の喫煙防止のため、20年7月に専用のICカード「タスポ」で成人かどうか識別する自販機を全国一斉に導入。
日本自動販売機工業会(東京)によると、23年12月現在、タスポなどの年齢識別機能が付いた改良型機の普及率は100%で、全国に約32万7500台あるという。
切り替えに成功した理由について、同工業会の担当者は
「タスポの導入が財務省肝いりの事業だったのに対し、酒自販機の切り替えは業界団体の自主基準でしかなかった」と指摘。
たばこ自販機は残すことを前提にする一方、酒自販機は撤廃を前提にしていたといい、「それぞれの業界団体のスタンスの違いが成否を分けた」とみる。
また、酒自販機は基本的に小売店側が購入しなければならないが、たばこ自販機はたばこメーカーが 小売店側に無償で貸し出すケースが多いことも普及の追い風になったという。
ただ、たばこ業界もタスポを導入したことで、60万台を超えていた自販機はほぼ半減。
2兆円近かった売り上げも、23年は約5800億円に落ち込んでおり、「切り替えには成功したが、タスポの導入自体が成功だったかどうかは何ともいえない」と言葉を濁した。
■自販機もろとも…
酒もたばこも、自販機よりコンビニの手軽さが消費者にうけているのだろうか。
自販機受難の時代は続く。
自販機の売り上げが低迷しているために小売店側も自販機の新規購入に踏み切れない。
メーカーは酒自販機を作っても売れないから撤退する-という悪循環に陥っている。
数年前まで5社あった酒自販機メーカーは1社を残すのみとなった。
同連合会の松田会長は「最後の自販機メーカーもいつ撤退するか分からない。
もし撤退すれば、全国ワースト1の大阪からも自販機が消えてしまう日がくるかもしれない」と話している。
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