敗戦間近になったドイツから、当時占領下に置かれていたデンマークに大量の難民が押し寄せた中、無理矢理受け入れ先に選ばれた大学の学長家族が、ドイツ人の現状を知り、人道的な判断をしたいとしながらも、ドイツを憎むデンマーク人市民との間で板挟みになってしまうというもの。
デンマークの人々にとっても知られざる実話からインスパイアされた作品だという。
公式HPでは、人間が選択すべき“正しいこと”とは何なのかを問いかける。そこにこめられた根源的なテーマとメッセージは、ウクライナやパレスチナ・ガザ地区のニュースに接し、もはや戦争が遠い過去の出来事ではないと知っている我々の心を、熱く、激しく揺さぶることだろう。と書かれている。そういった意味では、すごく勉強したい内容だ。
監督はアンダース・ウォルター。本作は2024年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭国際コンペティション部門に選出されている。英語題は「Before It Ends」。
ただ、映画の構造はとてもオーソドックス。私風に言うと、2000年頭の「バンド・オブ・ブラザース」のような戦争を扱った一般作のテイストだ。だから、その緊迫した時期の判断が停止する状況を、少年の目を通して描くのだが、ドラマとしては、ありがちな展開だ。
例えば最初に彼らを救いたいと立ち上がる母親が、今度はある種の事件で、彼らに手を貸すのをやめるが、今度は、ジフテリアが猛威をふるい、子どもや老人が死んでいくと、大学学長である父親が、周囲からの批判を恐れず力になるし、そんな父親を祖国の裏切り者のように見ていた息子、つまり12歳の少年も彼らを救いたいと思い始める。さらに事件は起きるのだが、すべてに心境を変化させる事情や出来事などが用意されている。
これは紹介の文章にあるので、書いても良いだろうが、ドイツ難民の女の子と親しくなっていた息子が、彼女が感染症で死にかけていることを知り、危ない橋を渡ることになる。
と書きながら、やはりテレビドラマ的な展開に、安心する人も、うんざりする人もいるだろうが、戦争に勝っている間は「関心領域」の家族のように、他国の人々やユダヤ人の生命に関心を寄せなかった人々が、自国ドイツが敗戦するという時に、ドイツを脱出した20万人以上が、デンマークに難民として流入したことなど、知らなかったことがわかるだけでも面白い。
学長の父にピルー・アスベック。映画初主演だが、やたら感情表現の上手い息子のセアンにラッセ・ピーター・ラーセン。
映画そのものはドイツの敗戦で終わりを向かえるが、1945年:の大戦後、故郷を追われた1,200万人ものドイツ人や200万人のポーランド人、ウクライナ人による大規模な移住が起こったと記録されている。またドイツの国境が引き直されたことにより、故郷を離れなければならないドイツ人もいたという。
現在のドイツが比較的移民に寛容なこととも関係があるのだろう。多くの人種と言語が混在するヨーロッパ。EUでいいじゃないか。
2024年8月公開。