熱心で不寛容を嫌う女性教師のカーラは、生徒の信頼を得ていたが、校内で盗難事件が相次ぎ、彼女の教え子が犯人として疑われる。学校側の対応は、教育的に解決する手段の筈が、犯人特定が中心となり、学級委員の生徒までに誰が怪しいかを探るような、まさにカーラが一番避けたい方法をとっていく。「さあ、一人ずつ教室に入ってお金を返そう」みたいなことは、日本の学校でもあったが、そんな「ありふれた」昭和のような学校ではない。

 クラスには違う宗教の生徒もいるし、他の国から移民してきた家族の生徒もいる。第一、カーラ先生だって、ドイツ生まれだがポーランドからの移民一家で育っている。不寛容と分断は心が痛い筈だ。

 学校側に反発したカーラは、ふと思い立って、ノートPCの隙間から椅子に掛けた自分の上着を撮影。何と映像に、ある人物(ブラウスの袖)が盗みを働く瞬間が収められていた。というもの。それを校長に相談し・・・。という物語だ。ドンドン問題は大きくなっていき、まさに教師間の分断や、それ以前の盗難に関して生徒を巻き込んだことからPTAには責められるし、カーラが一番恐れる、クラス内の生徒の分断と差別的憎悪を生んでいくというもの。そこに生徒たちの学校新聞までもからんで、とんでもない展開をしていく。

 「ありふれた教室」は数日間で、まさに社会の縮図となっていく。さすがドイツ映画、良く出来ている。本作は、2023年ベルリン国際映画祭パノラマ部門でワールドプレミアされドイツ映画賞主要5部門(作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞)の受賞を達成。2024年アカデミー賞国際長編映画賞に選出されている。

 監督のイルケル・チャタクはトルコ系移民の息子としてドイツに生まれた経歴の、注目すべき映画作家だ。主役のカーラにレオニー・ベネシュ。母親を泥棒と疑われ心を閉ざす少年オスカーに映画初出演のレオナルト・シュテットニッシュ。ものすごく注目していきたい。

 監督は本作について「社会の鏡についての作品です。それを表現するのに、学校は絶好の舞台なのです。なぜなら、私たちの社会の縮図であり、ひな型みたいなものだからです」と述べている。

 ドイツ語の原題は「Das Lehrerzimmer(教師の部屋)」。充実した99分。何かが解決するわけではないが、上手い終わり方にも注目して欲しい。

 2024年5月公開。