ベトナム戦争で使用されたダイオキシン類の一種を多く含む枯葉剤の影響で1981年に結合双生児として生まれたベトちゃん・ドクちゃん。1988年に分離手術に成功した後も深刻な健康問題を抱えていた。2007年兄ベトは亡くなっているが、2006年にドクは結婚し、2009年に男女の双子に恵まれた。このあたりのことは、日本でも多く知られている事実だから説明の必要は少ないと思う。

 本作は、ドクちゃん家族と、グエン・ドク自身の活動のドキュメンタリーだ。ドクの両親は、ベトちゃんドクちゃんが生れた後、離婚していて、実質二人は病院の医療スタッフに育てられたらしい。本作では、子どもたちに自分たちの生まれた姿を展示する戦争ミュージアムを見せたり、確執が残る母親や父親と面談する場面や、実際に枯葉剤で多くの被害を出したコントゥム市の行政機関を訪ね汚染除去の進捗を質問したりする姿を見ることができる。

 また彼は日本の学校も訪れる。と忙しく活動をするのだが、健康面での不安もある。枯葉剤の影響がどこまで続くのかの治験などもなく、彼の子どもたちの将来にも不安を感じているらしい。

 この作品は、枯葉剤を使用した米国への非難を大いにしたいのは心情ではあるが、主に家族の姿に焦点があてられている。だから、グエン・ドクと妻ティ・タイン・テュエンと二人の子どもたち(フジとサクラ)から見える人間関係のドキュメンタリーであり、どこにでもあるような家族の姿と、ここにしかないグエン家から、人間の姿を見つめて欲しい。

 監督は川畑耕平。グエン・ドクは映画の中で「人生のチャレンジの1つは生きること。2つ目は生き続けること」と述べている。

 でも、もっとドクちゃんや映画の中でも登場する障がい児を生んで来た原因を作った戦争を描け!という意見もあるのだろう。平和が大切など綺麗ごとだけではだめだけれども、ドクちゃんや家族の姿、父親の不誠実な態度に黙って出ていってしまう姿は、映画の中でしか見られない。ベトナム戦争で行われた悪事、枯葉剤だけでなく村民の虐殺事件、あるいは米国と一緒に出兵していた韓国軍の蛮行(「国際市場で逢いましょう」にも少し出てくる)など、胸糞悪くなる(汚い言葉ですいませんが)歴史は、自分で調べて欲しい。もちろん米国は枯葉剤散布の賠償などはしていない。

 だからロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザでの戦闘が行われている今こそ、観るべき映画なのではないかと思う。

 最後にもう一言。枯葉剤は除草剤の一種。あの除草剤ラウンドアップで世界シェアの独占を目論んだモンサントによって量産された化学兵器。現在モンサント社は買収されバイエル社である。

 モンサントに関する映画も多くあるので、調べて欲しい。

 2024年5月公開。