日本人ドキュメンタリストの竹内亮は、テレビ制作会社のディレクターだったが、10年前のNHKの番組で長江を撮った時、チベット高原にあるとされる「長江源流の最初の一滴」を撮れなかったという。そして中国人女性と結婚し、日本から南京市に移住。10年の時を経て、彼は再び2021年から2年かけて「最初の一滴」をカメラに収めるため、長江源流をめざすというもの。6300キロもの旅。もう一つの目的は、各地で10年前に撮影した友人たちと再会だ。

 こう書くと、まさにテレビによくある感動ドキュメンタリーなのだが、簡単な企画ではない。何しろ最終は5000メートルにも達する高所。高山病に苦しみながらの取材となる。

 テレビによくあると書いたけれど、全くその通りで、本人のナレーションでの気持ちの説明や、また別に小島瑠璃子のナレーションまで入る。そういった意味では説明過多なのだが、出会う風景は壮大だし、出会う人々、再会する人々は、私たちがプロパガンダされてきたイメージとはまるで異なる。

 貨物船の船長は、働き手の高齢化を嘆き、歩いて階段を上り降りして荷物を運ぶ棒棒(バンバン)という過酷な仕事をする老人の働きぶり。かつて出会ったイ族の少女は、長江の水位変化で、村がなくなったが、以前より豊かな生活の中で母親に。観光写真を撮らせていたチベット族の少女は、シャングリラで、立派な民宿のオーナーになっていたり。出会う人々が人間そのものの輝きを発している。

 監督の言葉を引用すると、「大手メディアで流れる現代中国は、どれも『批判ありき』で描かれており、中国に住む私からすると、リアルではありません・・・政治的な文脈は一才無く、主に私と長江沿いに住む友人達との友情を描き、ミクロな視点からよりリアルな中国を浮かび上がらせようという作品です」と。うーん、政治的な文脈も・・それもなあ・・。という感じだが、56もの民族からなる中国の雄大さ、人々のやさしさに触れたのも事実だ。もちろん映像作品ゆえのコントロールもあるのだろうが。

 竹内監督は2023年9月中国政府が文化交流に貢献した人たちに送る「蘭花賞」を、新型コロナウイルスの感染が拡大していた時期の中国市民のリアルな生活を伝えたことなどで、日本人で初受賞した。また、2021年には Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100」に選出されている。いわゆるテレビディレクターでもあり、中国SNSでの有名インフルエンサーでもあるのだ。

 さて、膨大な距離移動の末、源流にはたどり着けるのか?ここでは書かないことにしよう。高山病で息切れする感じで、映画を観て確認して欲しい。

 2024年4月公開。