デンマーク統治下にあった19世紀後半のアイスランドが舞台。デンマークの若き牧師、ルーカスは、アイスランドの辺境の村に教会を建てるため、過酷な自然環境の中、その土地を目指すのだが・・・。という内容の本作だが、不思議な実感の映画となっている。
最初は、荒れた海辺から、山越えで村を目指す映画の半分ほどの旅。馬による旅は、極めて危険で、過酷なものだ。一行は、次々と起こる事件に翻弄される。デンマーク人を嫌うガイドのラグナルと対立しながらも仲間を亡くしてしまったりして、ルーカスは瀕死の状態になってしまう。
構成上、次の大きなブロックは、目的の土地に着き、教会の建築が行われている。その村には、デンマーク人も住んでいて、そこでルーカスは目覚める。このセクションは春のような温かさに包まれていて、田舎だが命の危険がない穏やかな暮らしが描かれる。
観客にとっては、何も起こらないようだが、まるで初めての土地を訪れた旅行者のような感じだ。
そして、最後のセクション。まさかと思うような展開が待っている。神に仕える牧師の中に湧きだす、疑いや憎しみ。そんなドロドロしたものが先ほどまで感じていた、暖かさを掻き消してしまう。
まるで、3本の映画を経験するように感じる観客もいるだろう。こういった、映画のタッチまでもが変化する演出は新しいと思う。
ルーカスの過ちは何だったのか?と考えると、この映画は観客に、時として自分の中の「罪」などにも気づかせてくれるようだ。
牧師は重いガラス乾板のカメラで写真を残そうとしていて、これもこの映画の発想になったという事が、トップの字幕に出てくるが、長編3本目の監督、アイスランドのフリーヌル・パルマソンは、自分の馬が死んで、その死体を2年かけて撮影したのが、映画のきっかけだったとインタビューで述べている。「自然の中に横たわる馬の亡骸は長い時間をかけて朽ちていき、やがて骨だけになり、それも土に埋もれていく。人間が神のために右往左往したり、争ったり、醜い姿を晒したりしても長い時間の中で見れば、ほんの一瞬の出来事。すべては朽ちて、自然に還っていく」この発言、監督の死生観にも近いのかも知れない。
スタンダード比率でフィルム撮影された143分の大作だが、体験的に見せる工夫がいっぱいで退屈している暇はない。
牧師ルーカスにエリオット・クロセット・ホーブ。牧師を慕う娘に「MISS OSAKA」にも出演していた、デンマークのビクトリア・カルメン・ゾンネ。
2022年カンヌ映画祭・ある視点部門選出作品。かなりの見ごたえ。ぜひ。
2024年4月公開(関西)