日本語の副題を見ると、何だか色っぽい場所のようだが、社会派。今でもアメリカなどでは意見が二分される妊娠中絶を扱った作品だ。監督はパトリシア・ハイスミスが別名義で発表した女性同士の恋愛を描いた「キャロル」を20年かけて映画脚本にした、脚本家のフィリス・ナジー。本作は2022年ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出されている。

 時代は1968年から1973年まで。夫が弁護士で裕福な主婦のジョイは、2人目の子供の妊娠によって心臓の病気が悪化してしまう。唯一の治療は、妊娠をやめること。ジョイは中絶を申し出るが、中絶が法律的に許されていない時代、地元の病院の責任者である男性全員から「中絶は反対だ」と、あっさり拒否されてしまう。出産をして生きられる確率は50%と担当医師が言うのにである。酷い話だ。

 で、彼女は多くの可能性を探りながら、秘密裏に中絶させてくれる「ジェーン」という組織を知り、手術を受け、その後、「ジェーン」の活動にやりがいを見出していくというもの。

 主人公ジョイに「チャーリーズ・エンジェル」(19)では製作・監督・脚本・出演を兼ねたエリザベス・バンクス。ジェーンの中心人物バージニアにシガニー・ウィーバーが出演している。

 すごいガツンとくる社会派をイメージして観る観客は、はっきり言ってやめてもいいかも。その時代を象徴するような音楽ガンガンで、とてもセンシティブなテーマを扱いながらもイケイケドンドンなのである。(まあ、アメリカ映画的だ)

 もちろんこういった女性問題はアメリカだけでなく共産国も、キリスト教国だけでなく(もちろんイスラムも)常に男中心に議論され、アメリカのような白人中心社会では、女性は男によって庇護される存在で、「産む、産まない」の権利すら危うい。もちろん現在は州によって可能で、そのあたり「17歳の瞳に映る世界」(21)も見てもらいたい。

 本作では、金持ちのパーティーで着飾ったジョイは美しいペットのようだったのが、自分の意志で行動するようになる輝きは、演出されている。

 映画は、推定12,000人の中絶を手助けしたと言われているジェーンが、1973年アメリカ連邦最高裁が人工妊娠中雑の合法判決をきっかけに(ネタバレじゃない。歴史的事実)、活動が終わる場面で終了するのだが、何とアメリカでは、再びそれを覆し、違法とする動きが活発化し、論争が激化している。ここで、あの保守のトランプ野郎!みたいに思うのが、これが映画のプロパガンダ。気を付けよう。

 面白いことに古い感じを出すためにスーパー16ミリで撮影されているのだが、私の中にある種の疑問がわく。2022年製作でアメリカでは同年に公開されているらしいが、日本では2024年。うん、アメリカ大統領選挙に合わせたのか。日本だから選挙応援にはならないよね?

 2024年3月公開。