全国公開が少ない映画を紹介するのも気がひけるが、友人監督の映画でもあり紹介したい。

 大阪を拠点に世界をさ迷いながら映画を撮る映画作家、リム・カーワイ監督の「どこでもない、ここしかない」「いつか、どこかで」に続く、バルカン半島3部作の完結編。

 マカオ出身のエヴァは、かつて出会ったジェイと映画を撮った、北マケドニアのスコピエにやってくる。彼女はジェイを探すのだが、ジェイは映画のハードディスクといくつかのデータ、本を残して姿を消していた。ジェイはバルカン半島をセルビア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナへと移動しながら、何らかの痕跡を残している。エヴァはジェイの足跡を巡る旅を続けるという、ワクワクするストーリーだ。

 ジェイの撮った映画は「いつか、どこかに」なのだが、これはリム・カーワイの「いつか、どこかで」でもある。

 こう書くと、何とものんびりとした追憶の旅のようでもあるが、彼女が巡る場所には、戦争の痕跡がいくつも残されている。ボスニアのモスタルなど美しい観光地でもあるし、風景や建築物も面白く見る価値十分なのだが、このバルカン半島は、ユーゴスラビア連邦崩壊後、紛争地帯となった場所だ。

 かつて、サラエボは冬季オリムピック開催都市であったが、30年前には民族紛争で戦禍にまみれた。そのあたり、バルカン半島を彷徨する映画監督の旅を描いた叙事詩的映画、テオ・アンゲロプロス監督の「ユリシーズの瞳」で、名優ハーヴェイ・カイテルが慟哭した場所だ。

 表面的には穏やかな街の風景にそんなことを感じながら見ると、感慨深い。時折、入ってくる市井の人の語りの中にも、彼らの思いは反映されている。

 ユーゴスラヴィアの奇怪な「戦争記念碑」でもあるスポメニックが映画を不思議なものに感じさせている。

 エヴァにアデラ・ソー。監督ジェイを尚玄が演じている。

 多くの民族が交差する地帯の映画は、新しい映画の方法を巡る旅でもある。もちろん映画の製作方法を知る人間にとっては、過去と現在、同時に撮影しながら作っていけるなんて、「やられたな」という感じもあるが・・・。そうそう、「スポメニック 旧ユーゴスラヴィアの巨大建造物」と検索すると、すべて、至るところにあることが実感できる。

 関西公開2024年3月(東京は1月末から順次)