2023年カンヌ映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞したジュスティーヌ・トリエ監督作品。主人公ザンドラに「さようなら、トニー・エルドマン」で娘役を演じたドイツ出身のサンドラ・ヒュラー。弁護士にスワン・アルロー。

 ⼈⾥離れた雪⼭の⼭荘で、ここに住む家族の夫が転落死する。事故と思われたが、警察の捜査で、妻ザンドラに殺⼈容疑が向けられる。現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息⼦だけ。そういった状況の中での事件なだけに、警察も状況証拠しか上げられない。もし、殺人ならば凶器は?それすらない。まあ、サンドラと弁護士の戦いなのだが、公式HPの「これは事故か、自殺か、殺人か」の言葉に惑わされてはいけない。

 妻であるサンドラはそこそこ売れている作家で、死んだ夫も作家では食えないが、執筆は続けていて、教師の仕事もしながら家計を支えている。

 映画の最初は、仲むつまじいと思われていた家族像とは裏腹の諍いのようなものと、それに人間的な愛憎が組み合わさって、夫婦間の秘密や嘘が露わになっていく。しかも子どもには聞かせたくない話まで・・・。

 作家同士の夫婦のリアルな話がどんどん出てくるので、これはこれで圧巻だ。監督のジュスティーヌ・トリエは本作をパートナーで映画監督のアルチュール・アラリと共同執筆している。その関係もスリリングだ。彼女はその質問を軽くかわして、映画のテーマは非常に現代的で、女性の立場、男性の立場、カップルの相互関係、家庭において女性と男性の役割分担がきちんとなされているか、両者は同じ権利を持っているのか。家族や家というものは、社会が作り出している一種の実験室のようだ。カップルが、ともに生きていくためにはどうすればいいのか。と述べている。

 親のこういった問題にさらされ、ただでさえ父親を失った少年の心が一番傷ついているのだろう。ミロ・マシャド・グラネールが演じる少年にも注目だ。そして劇中では彼は大きな役割を果たすことになる。

 面白いセリフがあった。テレビ番組で文芸評論家が話している。彼女の作品は実際の生活での出来事をベースにしているが、彼女は意味をボカシて描く。その方が読者が真実に近づける。と話す場面がある。まさにその通りだ。だから映画の表現も少しボカシてある。観客の経験や推測で補って欲しい。

 だから、この映画で、「え!誰が誰を殺したん?犯人は?」って方にはお薦めしないが、152分の長尺、全く退屈する暇はない。映画を観た人は次の言葉で笑って欲しい。彼女は何も言わないが、弁護士のスワン・アルロー、狐に似ている。

 もうすぐアカデミー賞の発表だ。本作が何らかの受賞があれば、アメリカ映画は変化する時期かも知れない。

 2024年2月公開。