ヨーロッパで大注目監督ベルギーのバス・ドゥヴォス作品がようやく公開。長編第1作「Violet」(2014年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門で審査員大賞)、長編第2作「Hellhole」(2019年の同映画祭パノラマ部門に選出)の2作とも日本未公開で、ようやく「ゴースト・トロピック」と「Here」が今回上映される。

 まずは最新作「Here」から。

 ベルギーのブリュッセルに住む建設労働者のシュテファンは、アパートを引き払って故郷ルーマニアに帰国を考えている。彼は冷蔵庫を空にしたい。それで、姉や友人たちへの別れの贈り物として、残り物で作ったスープを配ってまわる。友人たちとの会話。全身麻酔で目が覚めた話。その後、不思議な夢を見た話などを友人はする。

 そんなある日、森を散歩していた彼は、以前レストランで出会った中国系ベルギー人の女性シュシュと再会し、彼女が研究する苔の世界に触れていくというもの?「苔?」って感じでしょ?

 でもね、スパイとかヤクザとか殺人事件とか、そんな映画に毒された頭には何のことやらという感じかも知れないが、お寺や公園を散策すると、足元に広がる苔の方が前記の題材よりなじみが深いことがわかる。苔を見ることにそれほどの魅力を私は感じないが、一心に、苔を観察する女性とは時間を共有したい。

 個人的なことだが、映画の中の凄い雨の音を聞いていると、映画と関係のなく子どもの頃、田舎の大きな家の座敷で聞いていた、雷の前の雨の音を思い出していた。そんな作用もあるのかと不思議な体験をした。

 誰かが書いていたが、「世界と出会い直す魔法」という予告編のテロップは、「気付いていなかっただけで、新たな世界や新たな出会いへの扉は絶えず開き続けている」という希望を感じ取れるメッセージではないか?

 バス・ドゥヴォス監督は、インタビューで「身体的な暴力から感情をゆさぶったり、ヒーローが傷ついて相手をやっつけたりするような短絡的なストーリーに僕自身がもううんざりしていたんです。ほかにもっとたくさんストーリーはあるだろう」と。

 16mmフィルムスタンダードサイズで撮られた本作は、2023年ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門・最優秀作品賞&国際映画批評家連盟賞をダブル受賞している。

 出演は、シュテファンにシュテファン・ゴタ、シュシュにリヨ・ゴン。ラストもロールテロップではなく独特の文字構成。「a film by」からの文字の出方も洒落ている。まあ、そんな事より、バス・ドゥヴォスがアピチャッポン・ウィーラセタクンやケリー・ライカート同様に独創的な映画作家であることは間違いない。

 2023年製作 劇場公開:2024年2月