何ともスッキリしないタイトルだが、名古屋掖済会(エキサイカイ)病院の救命救急センターを取材したドキュメンタリー。「断らない救急」をモットーとする病院では、色々な救急症例がある。ホームレスのお年寄りのSOSから、自殺を疑われる転落事故。もちろん急病。そのうち、新型コロナウイルスのパンデミックにより、救急車の受け入れ台数は連日過去最多を更新。他の病院に断られた患者も押し寄せる。窮地に立たされたERの様子をありのままに記録した作品だ。

 ERの仕事を“究極の社会奉仕”と捉えて日々全力を尽くす医療スタッフたち。少女の耳の中の虫を取り出したり、ドングリが鼻に入ってとれない男児など。思わず笑ってしまうような症例もあれば、医療を通しての「貧困」や「無保険」の問題も見えてくる。

 本作は、東海テレビによる劇場公開ドキュメンタリーで、東海テレビと言うと、大ヒットした「人生フルーツ」や「ヤクザと憲法」「さよならテレビ」などがあり、ドキュメンタリーには定評がある。監督は足立拓朗。映画ドキュメンタリー初監督だという。東海テレビのドキュメンタリーは少しばかりのインタビューはあってもノーナレーションがありがたい。

 さて、実に色んな観点で感じることの出来る作品で、よくできた映画とも云えるが、気になることも次に述べたいと思う。

 アメリカのテレビドラマシリーズで注目された「ER」。日本でも多くの映画やドラマが作られてきた。いわば、短時間に生死や、医療行為の結果などを表現しやすいからだろう。また、命に向き合う現場には、多くの表情があり、映画になりやすい。

 ただ、作品に触れる時、医師やスタッフをある種、英雄視しやすい側面もある。それだけに、表現者としては、表面的な正論を示すだけでなく、その背後にある矛盾や後悔、システム全体の欠点にも目を向けるべきだろう。例えば救急医療が病院経営を圧迫していたり、救急を受け入れることで、他の専門分野にも負担を強いる事。何よりも医療スタッフの過労や「やりがい搾取」にも目を向けたい。確かにERが患者を引き受けなければ、患者側は困る。しかし、救急だけではなく、感染症医療や自殺者を減らすことに貢献する精神医療などにも、時間があれば触れたいところだ。まあ、映画の時間では悩ましいところだ。

 病院名の「掖済(エキサイ)」とは、腋(わき)に手を添えて救い導くことを意味。救急では名古屋の最後の砦として、素晴らしい志なのだが、神戸の甲南医療センターで過労の末、自死を選んだ未来ある若い医師の悲劇などがあった現在、綺麗ごとではなく医療関係者の労働環境にも注視が必要だ。

 2024年2月公開。