2022年ベルリン国際映画祭・ジェネレーション部門(Kplus)でグランプリを受賞し、2023年アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートもされた作品がいよいよ公開。

 脚本・監督は本作が長編第一作になるコルム・バレード(次々と長編第一作目監督が映画を活性化してくれるのは嬉しい)。9歳の主人公コットを演じるキャサリン・クリンチはIFTA賞(アイリッシュ映画&テレビアカデミー賞)主演女優賞を12歳で受賞している。

 内容はというと、あまり話さない少女コットは、母親の出産で、家族機能がマヒした家から母親の親戚の家に預けられることになる。夏の間をアイルランドの田舎で暮らすコットは、ゆったりとした時間の中、中年の夫婦と過ごしながら、少しずつ成長し、新しい生き方を発見するというもの。

 最初、何故かこの家の夫はよそよそしいし、逆に妻は、髪をとかしたり、コットが家では受けたことがないような愛情に満ちた世話を焼いてくれる。観客は、だんだんとこの家で起こった不幸は分かってくる(喋りの友人はいらないと思うが・・・)。それは書かない。

 秘密がないはずのこの家で、コットはある事を発見する。何故か古い子どもの服があり、彼女の部屋の壁紙は汽車の模様だ。想像できるはずだ。でも、たぶんそれがテーマではないだろう。やはり、何も話さないコットの心の成長や、過ごした夏の美しさだ。それはたぶん一生涯、ただ一度の時間だ。

 計算されつくした4:3の画面サイズに描かれる、静謐な世界は、しっかりと見ることで理解が深まっていく豊かなものだ。彼女の大家族の農家の光と、ここ親戚夫婦の農家の光は違うようだ(まあ、そのように映像設計してあるのだが)。次第に心が通うようになる夫は、まるでコットの父親のように見える。2人だけの時間「Many the person missed the opportunity to say nothing」(本当はアイルランド語だが、多くの人は話さないことのチャンスを逃しているという意味)というような会話も出てくる。

 もちろん、いつか美しい夏は終わる。コットのラストの走りは感動的だが、過去回想のフラッシュバックは要らないかも知れない。だって、この映画は観客の私にとっても、ワンカットとして忘れられない体験となっているのだから。

 原題は:An Cailin Ciuin(The Quiet Girl)。

 ところで、この映画がグランプリを受賞したベルリン国際映画祭・ジェネレーション部門とは、子ども映画ではない。子どもやティーンを描いた作品で、大人が鑑賞するものだ(映画祭ではティーンが審査員となるが)。最近のもので「The Seen and Unseen(見えるもの、見えざるもの)」「Summer 1993(悲しみに、こんにちは)」「House of Hummingbird(ハチドリ)」、日本作品では諏訪敦彦監督の「風の電話」川和田恵真監督の「マイスモールランド」など評価も高く印象に残る作品も多い。ぜひ、チェックして欲しい。

 大人である以上、子どもをとりまく状況には、関心と問題意識を持って臨みたいものだ。

 2024年1月公開。