海洋生物学者アビーは、母のドラが脳卒中で倒れたとの知らせを受け、西オーストラリアの海辺の町に帰郷する。ドラはすぐに退院したのだが、言葉を発することができなくなっていた。

 本作はアビーが海と共に、母と共にどのように成長したかが、美しい海洋の撮影と共に語られていく。そういった形式なので、アビーは「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカが現在を演じ、子ども時代、少女時代と俳優が変わっていく。

 また、母親のドラも、若い母親だった時代をラダ・ミッチェルが演じ、晩年のドラをリズ・アレクサンダーが演じている。

 いわゆる一般作の構造を持つ映画なので、過去回想など何となく面倒な感じがある。海洋環境活動家だった母との思い出の中で、テーマとして海洋保全が強く語られるのだが、少女期の思い出の中では、リゾート開発と魚を根こそぎ採ってしまう違法操業との戦いなどが描かれる。悪役を登場させないといけないのだろうか?何だか古い劇作法だ。それは、アビーの少女時代で、現在の海洋生物学者のアビーにとってはサンゴの白化など、もっと深刻な海水温の温暖化こそが問題だと思うが、最初の母親が倒れた連絡以降は触れられない。

 また、脳卒中で口がきけないはずの母親が、二人で海に入ると突然言葉が出て、海の大切さを語るあたり、「あらあら、やっちまったな」という感じも覚えた。

 テーマありきの映画だから仕方がない部分もあるが、口がきけなくなった母の小さな行動などで、想いを感じさせて欲しかった。

 ただし、撮影は見事で、最後にザトウクジラの群れが湾に帰ってくるあたり勇壮だ。

 ところで、ブルーバックとは、子ども時代のアビーが名付けた魚の名前。それは、西オーストラリア州に生息しベラ科の一種であるウエスタン・ブルーグローパーで、体長は約1.5メートル、体重は約40キロにも達し、約70年は生きられるとのこと。ダイバーと出会うと犬のようにとても人なつこく好奇心旺盛なところが人々を魅了すると言われている。が、映画の中のブルーバック、精密なロボットだそうな。すごいことをやってのけると感心してしまう。が、そのブルーバック。大人のアビーと再会なんて・・・。どこまで過去のドラマツルギーなの?などと、否定的な批評を書いたが、海洋の美しさは観る価値あり。それと、ブルーバックも。

 原作は、2008年度青少年読書感想文全国コンクール小学校高学年の部の課題図書に選出されたティム・ウィントンの「ブルーバック」。監督はロバート・コノリー。

 2023年12月公開。