ケリー・ライカート監督作品。ケリー・ライカート作品は1994年に発表した長編デビュー作「リバー・オブ・グラス」でさえ、日本では2021年に特集上映のみで公開されたというだけあって、うかうかと見逃してきた素晴らしい監督だ。現代アメリカ映画の最重要作家とも呼ばれている映画作家だ。

 ネットでは「ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択」(2016)は観てはいるのだが、本作はどうであろうかと期待は膨らんでいく。

 映画は現代のオレゴン州で、犬の散歩中に、犬が発見した白骨から物語は始まる。で、舞台は⻄部開拓時代のオレゴン州。とはいってもかなり後期。その田舎の地は、アメリカン・ドリームを求めてやってきた白人と先住民、あるいは中国人などがいる。そこに罠の仕事というビーバーの毛皮をとる連中の料理⼈、クッキーと、中国⼈移⺠のキング・ルーが出会う。

 二人は以前よりの知り合いらしく、意気投合し、パン菓子を作って売ろうとするのだが、そこに、この地には居ない牝牛が富裕な英国人仲買商の手によりやってくる。美味しい、スコーンを作るには、牛乳やバターは必要。さてさて、彼らは禁断の作業を始めてしまうというもの。

 と、物語を紹介するのだが、この監督の作品にはあまり必要はない。映画的に面白い空気感と設定、台詞とリアクションがあれば、それで映画を創ってのける才人故、やはりミニマリズムの旗手とも思える作品ではあった。

 台詞は面白く、人間とより牛との会話などは、こズルい真似をしながらも礼儀正しく、善良な人間の姿であったり、ちょっとしたことで傷ついてしまう青年であったり、感情は丹念に演出されている。

 ただ、本作では、彼らの行為が、やはり良くないことで、どうしても、その幼稚なスリルと、説話的になってしまう所があり、「ライフ・ゴーズ・オン」でドキドキするほど面白かった女性たちの気持ちのすれ違いや共感が読めなかった感じがあって、少し残念だ。

 クッキーにジョン・マガロ。キング・ルーにオリオン・リー。本作は2020年ベルリン国際映画祭コンペ部門に選出されている。

 ケリー・ライカート、今後も追いかけて行きたい一人の映画作家だ。この映画も2019年の制作だ。そして今、単館系ではA24特集で、2022年制作の「ショーイング・アップ」も公開されるが、特集上映故、うかうかと見逃さないようにしたい。

 2023年12月公開。