「アダミアニ」とは、神が創造したアダムを語源とするジョージア語で「人間」の意味。

 この映画は、東ジョージアの山岳地帯パンキシ渓谷で暮らすチェチェン系ジョージア人「キスト」の人々のドキュメンタリーだ。

 チェチェン系の人々はムスリムで、ジョージアの人々はキリスト教だ。その人々が暮らす谷で、レイラは娘マリアムとゲストハウスを経営しながら、この地に定着したレッテル「テロリストの巣窟」を払拭すべく、観光に力を入れ、ポーランドなどから観光客を受け入れている。

 従兄弟アボは、旅行者をコーカサスの山へ案内するガイドだ。彼は戦士の一族に生まれ、体を鍛え上げているが、戦争によるトラウマも抱えている。彼はポーランドから来た女性バルバラの旅行会社を手伝っているらしい。

 レイラはキリスト教の教会にも出かけ、ジョージアの人々とも仲良く暮らせるよう努力をし、進歩的な考えの女性たちと、互いを理解し合うイベントを企画している。ただし、若い男性たちは、過激な思想に染まる者も多く、実はレイラの二人の息子も戦死している。

 現在の一人娘のマリアムはジョージア人との子どもで、キリスト教徒だ。レイラは互いの宗教を尊重し合う関係を求めているらしいが、まさにイベントが開かれようとする矢先、一人のキストの青年が、テロリストのレッテルを貼られ殺された。

 その事件を境に再び分断が広がろうとしているという内容だ。極めて日常的に撮影された風景や人々の中に、複雑な事情や心情が伺える。

 この谷は人口7000ののどかな地域だが、1999年、当時首相だったプーチンによってチェチェンへ大規模攻撃が開始されると、難民や独立派ゲリラは国境を接したジョージアのこの地を目指した。

 ロシアはジョージアがテロリストを匿っていると激しく糾弾。 2001年にアメリカで同時多発テロが発生すると、アルカイダのオサマ・ビンラディンの潜伏先の一つと疑われた。

 この混乱は、キストの暮らしやイスラム信仰に強い影響を与え、シリア内戦では200名を超える若者たちがテロ組織に参加したとされる。

 そんな背景を知りながら、本作を観ると、美しい風景や庭など、人々の笑顔までがかけがえのないものだと感じられる。

 本作の撮影・監督は竹岡寛俊。日本とオランダの合作で、東京ドキュメンタリー映画祭2022では、長編部門コンペティションでグランプリを受賞した。

 2023年12月公開。