江戸時代に隆盛を極め、明治時代には禁じられた「春画」。その世界に迫るドキュメンタリー。というか、うーむ。形式的には教育映画や産業映画に近いのだが・・・。でも春画だしね。ということで、映画としてどうのというよりは、江戸時代一流の絵師たちによる春画を見てみたくて鑑賞した。

 歌麿や鳥居清長、鈴木春信らの春画、大名家への嫁入り道具と伝えられる華麗な肉筆巻物、ヨーロッパのコレクター秘蔵の「春画幽霊図」など。国貞作の源氏物語のパロディー「正写相生源氏」、さらには北斎の有名な「蛸と海女」の絵などが紹介される。

 日本国内だけでなく、ヨーロッパまで取材し、多くの収集家や研究家の想いを伝えるインタビューと美しい映像で構成されている。また、絵師だけでなく、彫師、刷師たちの春画復刻の作業も収められている。

 浮世絵そのものの美しい醤油顔に、巨大にディフォルメされた局所。まあ、写真じゃないので猥褻ではないが、とりあえず本作は18禁である。

 江戸時代の男も女も、男も男も、女も女もが、性を楽しんだ文化のおおらかさが感じられる。明治以降、そういった春画は「わいせつ物」として取り締まりの対象となり、姿を消してしまった。また、明治という時代は富国強兵。先ほど書いたような同性愛的な文化は許さない時代だったのかも知れない。(これは私見)

 本作では、春画のおおらかな世界に迫るべく、その春画に書かれた、これまたエロいセリフを、森山未来と吉田羊が吹き替える。そういった意味で、ドキュメンタリーと云うよりは、教養エンタテインメントだ。

 ただ、春画にまつわる失われた技術や、あるいは子孫繁栄の道祖神のシンボルにまで話を広げるのはどうだろう?何だか怪しげなウンチクの披露に過ぎないのではないか。

 突然思い出したのは、イグナシオ・アグエロ監督の「100人の子供たちが列車を待っている」だ。サンチャゴで映画を見たこともない子どもたちが、映画づくりを学習していく過程のドキュメンタリーだ。映画を愛する人間にとっては、微笑ましい作品だったが、親たちのインタビューで「会話が増えた」などの有効性が強調され、当時、PR映画などの監督をしていた立場では、一気に嫌な気持ちになったものだ。つまり、何を言いたいのかというと、ドキュメンタリーは方法論においても企業PRと違うアプローチが欲しかったということだ。

 もちろん、そういった訝しさはあるが、観る価値は大いにあると思う。

 監督は平田潤子。ドキュメンタリージャパンの制作だ。春画を美術展で鑑賞する機会のない方にお薦めの映画だ。

 2023年11月公開。