本作の予告編を見て、ドキュメンタリーだと思い込んでいたが、ドキュメンタリー手法のドラマだった。「ある職場」の舩橋淳(あつし)監督の作品だ。全国7館でしか上映されない映画だが、とりあえず書いていきたい。

 舩橋監督は東大からニューヨーク・ビジュアルアーツで映画を学び、私は「ビッグ・リバー」が彼の作品に触れる最初だった。彼の同世代に同じ経歴(学歴)をもつドキュメンタリストに想田和弘がいる。舩橋監督もドキュメンタリーは撮るが、想田監督とはタイプが違う所が面白い。ただし、「ビッグ・リバー」はお世辞にも面白いとは言えない映画だったが・・・。

 さて、この「過去負う者」では、俳優たちがリアルに芝居をしている。もちろん、完璧ではなく、芝居に見える部分もないではないが、観客はドラマだと認識していても、ドキュメンタリーを見ているハラハラや、痛みを感じながら映画と対峙していく。

 内容は罪を償って刑務所から出て来ても、社会は「こわい」という感覚で彼らを受け入れることが難しい。そんな彼らを受刑者向けの就職情報誌「CHANGE」(架空)のチームが、就労を紹介し、更生支援をしている中での、元受刑者の状況や受け入れる社会の戸惑いを描いた作品だ。

 率直に言うと、すごく刺激的な作品で面白かった。ここまでリアルに表現されると、「面白い」という言葉さえはばかられる。

 ここでは単に就職紹介だけではなく、就職後の見守りも続けている。(だからドラマになるのだが)その中で、演劇による心理療法・ドラマセラピーが出てくる。演じることで、他者を理解し、他者と向き合える方法を探るものだ。海外の学校などでは、そういった取り組みは多く見られる。

 で、この映画でもラスト付近に、このドラマセラピーから発展した小演劇を市民に見てもらう機会が作られるのだが、その観客の中には、子どもを交通事故死させられた被害者家族もいる。つまらないテレビドラマなら、互いを理解しあえて終わるのだが、そうはならない。

 誰だって、分かったような顔をして善人ぶりたいが、自分事になれば、時には差別者とならざるを得ない。そのあたりがスリリングだった。

 とても斬新で良い作品だった。ただ、やはり批評をしておきたいこともある。その一つは、元受刑者を再び犯罪に誘う罠が、ステレオタイプすぎる。もちろん、監督は実際の元受刑者や支援者にインタビューや話を聞いていると思うが、ドキュメンタリーなら、ステレオタイプは批評にならないが、ドラマだから、より複雑にするか、「分からないものは分からないこと」とすべきではないか。単に行動に対する理由づけの安易な設定なら、観客の自由な思考を奪うだけだ。

 もう一点は、そう、最後の舞台で私たち観客は途方にくれるのだ。だから、そこで終わるべきだ。その後に、後日談的なものや、「それでも希望はある」的なものを付け加えるのは、どうかと思ってしまう。それを付け加えることで観客はドラマに安住する。途方にくれる世界に突き落とされることも「開かれた映画」ではないだろうか。

 出演は辻井拓、久保寺淳、満園雄太、紀那きりこ、他。

 もし、機会があれば、是非観て欲しい作品だ。

 2023年11月公開(大阪)