全国7館でしか上映しない15分の短編作品だ。「凱里ブルース」「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」で特異な映画世界を体験させてくれる中国の才人ビー・ガン監督の新作らしい。

 2022年カンヌ映画祭短編部門で突如発表された本作は、黒猫(と言っても単なる設定)が3人の奇人と会う話だ。その3人とは、ほろ苦さと引き換えに、めずらしい飴を配るロボット。愛する人を忘れるために、食すると記憶が短くなるという麺を啜る女。時間を操る魔法を使えるようになりたくて、劇場に棲みついた悪魔。これだけでは何のことだか分からないが、まるでお伽話を、少々不思議な映像で綴った15分。ただ、ハッとする世界への皮肉や毒のようなものは皆無だった。そのあたり、カンヌの審査員も戸惑っただろう。

 2022年のカンヌ映画祭の短編パルムドールは同じく中国のStory Chen監督(ジエンイン・チェン)の「The Water Murmurs 水はつぶやく」だった。この作品は水没していく世界を受け入れていくしかない感覚の作品で、これは新鮮だった。というのも、この「水はつぶやく」は、なら国際映画祭2022のカンヌ招待短編特集で上映したのを観ているからだ。だから、才人ビー・ガンと言えども、パルムドールには届かなかったと思う。

 さて、15分という短編映画のために劇場まで行き、ワンコイン500円を払うことが高いかどうかは、その人の価値観だろう。交通費を入れると割高なのだが、私においては遊園地のアトラクションに乗るより安いし、おおいに価値ある時間だった。

 2023年11月公開(関西)。