ジャン=ポール・サロメ監督作品。主演はイザベル・ユペール。きわめて分りやすく、ありきたりの映画手法で描いた映画だ。だから、新鮮な映画表現には程遠い。実話映画だから仕方ないのかも。

 しかし、現代がどのような時代か?どのような不正義があるのか?そういった事を知るにはちょうど良い映画だ。フェミニズムの視点でも描かれている部分は興味深い。

 内容は世界的企業のフランス労働組合代表モーリーン・カーニーと、彼女が巻き込まれた国家的スキャンダルを描いたもの。映画には、仏最大の電力会社や原子力企業アレバ社のCEOや当時の経済大臣まで、事件に関与したかもしれない人物たちが実名で登場する。なかなか勇気ある映画だ。

 事件を簡単に整理すると、アレバ社の世界5万人の従業員の雇用を守るため、中国とのハイリスクな技術移転契約の内部告発を行ったモーリーンが、自宅で何者かに襲われる事件が起きる。全く証拠のないプロの犯行だ。検察はその後、それを自作自演だと決めつけ、無理矢理供述させようとする。権力側からの精神的暴力や原子力に絡むスキャンダルは恐ろしい。

 思いだしてみよう。2006年まで東電の原発稼働を拒否した福島県知事の佐藤栄佐久氏がまるで仕組まれたような汚職事件で逮捕、失脚したり、東電社内で原発反対派だった女性社員が殺された「東電OL殺人事件」(これもスキャンダラスに脚色された事件)などが日本でも起こっている。

 だから、どうしても正義感で映画を見てしまうのだ。しかし、映画はと言うと、反原発などではなく、あくまでも原子力大国フランスでのアレバ社の赤字と国有電力会社EDFによる原子力事業再編と、格安で技術提供を営業する中国企業などの情報を背景に、従業員を守る立場で情報を握り始めたモーリーン・カーニーの口を封じたい何者かとの戦いが内容の大半。モーリーが襲われた犯人は闇の中だが、ある種の解決を見るというもの。

 映画の中で「フクシマ」という言葉が二回出てくるが、前半モーリーが家族とカードゲームしながら、「世界中ゴミだらけに汚しやがって」みたいなセリフの中に「フクシマ」の言葉は出てくるが日本語には翻訳されていない。後半に出てくる「フクシマ」は、「フクシマ以後、原子力は苦しい状態が続いている」という旨のセリフであった。

 この事件、不屈の闘志でモーリーは偽証罪を免れるが、彼女は企業を退社し、英語教師に戻っている。

 その後も少し調べると、国有電力会社EDFによる再編は中国企業の出資と日本企業の増資完了をもって、アレバから新会社オラノへと引き継がれている。

 ちなみに映画には全く関係ないが調べて見ると面白い。現在、原子力大国フランスは原発依存度を約70%から50%にまで低減させる目標を掲げ、再生可能エネルギーの拡大にシフトし始めたという。再生可能エネルギーのコストは急激に下がり、原発はすでに高コストな存在になり始めているらしい。

 2023年10月公開。