パリオペラ座のバレエ団でエトワール目前のエリーズは公演中に足首を負傷してしまう。バレエダンサーの寿命は短い、6歳から初めても、実際に天使のように重力を制御し美しく踊れる期間は長くない。

 失意の中で、エリーズはで新しい生き方を模索しはじめるのだが・・・。と書くと「出会うのでしょ。何か打ち込めるものと」って誰だって思ってしまう。はい、その通りです。

 監督は「おかえり、ブルゴーニュへ」、「パリのどこかで、あなたと」など、軽めのドラマで冴えた才能を発揮するセドリック・クラピッシュ。

 フランソワ・シビル演じるゲイの整体師や、絶対に娘に「愛してる」や「おいしいね」など本音を言わない父親に「12ヶ月の未来図」のドゥニ・ポダリデスなどを効果的に登場させ、人間的な小さな笑いをとるのだが、「何でもいいから感動させてよ」、という観客には食い足りない映画かも知れない。

 でも本作の売りは、バレエとダンス。ヴェンダースのダンスドキュメンタリー「ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」を観て、コンテンポラリーダンスの魅力を感じた方にはおすすめの映画だ。

 何といっても本作のヒロイン、エリーズを演じるのは、オペラ座の正式団員でプルミエール・ダンスーズに昇格までしたマリオン・バルボー。6歳からバレエをしてきた過去も物語と一致する。というか、彼女のためにシナリオも書かれたのだろう。冒頭、ケガをするまでは空中に舞い上がるようなバレエを楽しませてくれる。(プルミエール・ダンスーズは主役であるエトワールの下だが、ソロパートを踊ることができる階級)

 後半、彼女が出会うのは、コンテンポラリーダンス。フランスを代表する若手ダンサー、メディ・バキも本人役で出演。振付・音楽は振付の世界では第一人者のホフェッシュ・シェクター。彼も本人役で出演する。

 で、その世界にプルミエール・ダンスーズのマリオン・バルボーが入って、今度は大地に足を踏みしめるような力強いキレのあるダンス楽しませてくれるのだから、申し分ない。

 「挫折をしても次の世界は広がっていくってことがテーマなの?」なんてこと考えても仕方がない。そんなことは、人によっても状況によっても生きている社会によっても違うし、この映画もそんな事押し付けてはこない。だから・・・ダンスを楽しむ映画で・・・いいんじゃないのかなあ。

 2023年9月公開。